法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第1話 トロピカれ! やる気全開!キュアサマー!

小さな島にわかれをつげて、都会へひっこす夏海まなつ。しかし船上でリップを海へ落としてしまう。
一方、人魚のローラはプリキュア探しを命じられ、不満な気持ちで深海の国から地上へむかっていた。
リップをひろったローラと、入り江で出会った夏海。ローラは夏海がプリキュアではないと判断するが……


シリーズ初参加の横谷昌宏がシリーズ構成として脚本も担当。東映とは『ゲゲゲの鬼太郎』6期の脚本でつながりができたか。
まず、他のメインキャラクターをいっさい出さない構成が珍しい。主人公ふたりの性格を余裕をもって描ききり、その出会いのドラマとして純度が高く完結している。
メインキャラクターをしぼっていることは、おそらく制作リソースの節約にもなり、主人公の奔放さをアニメーションとして表現する余裕にもつながっているのだろう。同じ上野ケン作画監督の『スター☆トゥインクルプリキュア』第1話*1と比べても、さらに主人公の芝居が楽しい。
そうして描かれるのが、定番のスポーツマンとも違った野生児的な真夏と、人間と距離をとって自身の目標しか考えないローラ。これだけシリーズを重ねて、また新たな主人公像が提示された。
特にローラの“悪い子”ぶりは、天然か優等生が多いシリーズで貴重。たしかスタッフのつながりはないが、姿かたちもあわせて『邪神ちゃんドロップキック』を連想した。
ただ、どちらも社会に混じる異分子という性格が強くて、他のプリキュアと同列で物語を動かしていく展開は予想しづらい。


夏海がプリキュアとなる流れは定番だが、そこで敵に自分が大事ではないのかと問われ、誰かを守ることが大事とヒーローらしく答えるのではなく、「何が大事かは自分で決める」と啖呵をきったことが印象的だった。
もちろん単体で見るなら、アイデンティティを重視する少女向け作品では新しいわけでも珍しいわけでもない。しかし前作の終盤をふまえると、アップデートというべきかアンサーというべきか、シリーズの試行錯誤を感じさせて興味深かった。


演出は土田豊シリーズディレクターが担当。初めてシリーズディレクターを担当した『金田一少年の事件簿R』1期目では各話演出にクレジットされなかったが、きちんと余裕ある映像になっていた。
作画監督は先述のように上野ケン。ひさしぶりに初回からアニメーションとして魅力的。特にアバンタイトルの一人芝居が目を引いた。室内で荷造りに悪戦苦闘するだけの姿が、見ているだけで楽しい。
大地丙太郎が演出したOPも元気いっぱいで、同じように東日本大震災の重苦しさを吹き飛ばすため登板した『NARUTO-ナルト- 疾風伝』OPを思い出させつつ、作風が本編となじんでいて違和感がない。
アクションについては特に新しさはないものの、高い頭身でなめらかに動いて、コミカルな本編と差別化できている。いずれにせよ新たなプリキュアとともに戦うようになってからが本番か。


それにしても途中で主人公が行った水族館は百合作品の定番だし、結末でふたりだけの会話にハート型の岩が映る光景も意味深長。

海でメイク道具をひろう関係性も、人魚姫の出会いをアレンジしたかのよう。これは今の時点で最終回のシリアスな別離を予感させる……