ドラマ化も予定されている田村由美の推理漫画『ミステリと言う勿れ』。
もう少し手がかりを描いてほしいと思うところはあるが*1、どんでん返しにいたる道筋はきちんとしていて楽しんでいる。
しかし最近、主人公の口にした社会実験の逸話がツイッターの創作だという指摘が話題になっていた。
togetter.com
はてなブックマークでid:IkaMaru氏が指摘しているように、信頼性の弱さは断っているし、ツイッターが元ネタという指摘は意味がないこともわかる。
[B! 創作] 「ミステリと言う勿れ」で社会心理学の実験っぽく紹介されていたエピソード、実はTwitterノベルの創作の丸パクリだったっぽい? - Togetter
このページの前に「前にネットでチラッと見た記事で、だから詳細はわからないんですが」と前置きしていることは隠すのね。書かれてる3巻は今ならkindleで無料なので、言及する前に読みましょう
そうして騒動は収束しているようだと思っていたら、「まつうら姫@lyricalium」氏らの新しい批判をid:srpglove氏がリツイートしているのが目に止まった。
『ミステリと言う勿れ』の計算問題妨害実験の元ネタは、Twitterに投稿された小説であり、しかも「実験」じゃなくやっぱり「体験学習」なのね。 https://t.co/D4UnC2oaas
— まつうら姫 (@lyricalium) 2021年8月18日
『ミステリと言う勿れ』の計算問題妨害実験の元ネタは、Twitterに投稿された小説であり、しかも「実験」じゃなくやっぱり「体験学習」なのね。父親教室の体験学習でテストが配られた。「30分でそれを解いて下さい」だが看護師が話しかけたり電話を始めたりと邪魔をして、結局誰も解けなかった。苛つく彼らに看護師は言った。「予定をこなしたくても邪魔が入って達成感を味わえない。それが赤ん坊を抱える母親の気持ちです」 #twnovel
お前なんかポリコレアフロじゃない、パクツイアフロだよマジで
— まつうら姫 (@lyricalium) 2021年8月19日
お前なんかポリコレアフロじゃない、パクツイアフロだよマジで
「パクツイ」とは他人のツイートをあたかも自分が思いついたようにツイートすることではないか。
あやふやな情報にもとづく説教をフィクションで書くべきではないといった批判ならともかく、「パクツイ」という批判はふさわしくないだろう。
それとも、情報源がはっきりしないことを断って何かを論評するツイートを、すべて「パクツイ」と呼んでもいいのだろうか。
さらに「まつうら姫@lyricalium」氏のアカウントを見ると、主人公の説教が作中で正義としてあつかわれているという前提で、さまざまな問題を批判しようとしていた。
そして漫画『テコンダー朴』の差別性を「ネタ」と評して『ミステリと言う勿れ』と同列視したあげく、『テコンダー朴』が倫理的という意見を許容していた。
『ミステリと言う勿れ』、作者がネタでなく天然でやってる『テコンダー朴』という感じがしてきた。
— まつうら姫 (@lyricalium) 2021年8月19日
『ミステリと言う勿れ』、作者がネタでなく天然でやってる『テコンダー朴』という感じがしてきた。
だから、テコンダー朴はものすごく倫理的な漫画なんですよ(´・ω・`)
— 愚民Artane.🦀@オメガツイッタラー(最底辺限界ツイッタラー)/コロナは風邪じゃない@経験者 (@Artanejp) 2021年8月19日
偽悪とか露悪なだけで(´・ω・`)
だから、テコンダー朴はものすごく倫理的な漫画なんですよ(´・ω・`)
偽悪とか露悪なだけで(´・ω・`)
それで言うなら『ミステリと言う勿れ』は偽善なだけで倫理に悖るって感じがします
— まつうら姫 (@lyricalium) 2021年8月19日
それで言うなら『ミステリと言う勿れ』は偽善なだけで倫理に悖るって感じがします
もっとも、下記のように「慰安婦問題、フェミニズムの負の側面が生んだもの」という認識*2を公言する人物なので、『テコンダー朴』との相対評価に驚きはない。
慰安婦問題、フェミニズムの負の側面が生んだものとしては世界史上でも最悪レベルのトラブルに見える…。もっと小さな運動体の中とかせいぜい各国内で分裂や対立を招くことはあっても、国家間をここまでめちゃくちゃにしたのって他にあるんだろうか。前例があれば学びたいのだが
— まつうら姫 (@lyricalium) 2017年1月8日
慰安婦問題、フェミニズムの負の側面が生んだものとしては世界史上でも最悪レベルのトラブルに見える…。もっと小さな運動体の中とかせいぜい各国内で分裂や対立を招くことはあっても、国家間をここまでめちゃくちゃにしたのって他にあるんだろうか。前例があれば学びたいのだが
こういうフェミニズムを嫌う男性があげつらおうとすることが、逆説的に『ミステリと言う勿れ』の価値を高めていると思わなくもない。
それにしても、「まつうら姫@lyricalium」氏の批判のいくつかをsrpglove氏が無批判にリツイートしていることが奇妙だ。
もともと『ミステリと言う勿れ』がインターネットの一部で「ポリコレアフロ」*3と呼ばれ低評価されているのは知っていたが、ミステリ愛好家なら良くも悪くも西澤保彦作品などを連想するだけだろうと思っていた。特異な犯行動機なども近い。
そもそも普通に読めば、主人公の発言が現実においても絶対的に正しいという作りの物語ではない。主人公は名探偵キャラクターとしては慎重すぎるほど発言に留保をつけるし、それでも反感を買うなどして追いこまれる。
主人公の倫理的なようで奇妙な主張に伏線をおりまぜるミステリの手法は、『ブラウン神父』シリーズに近い。意識しているのかどうか、名探偵の紹介にあたる初回の構成もよく似ている。
もちろん、ひとつふたつのリツイートやフォローが対象の人物全体を許容しているとはかぎらない*4。
しかし、情報源の明確ではない情報をフィクションの登場人物に語らせることを批判したいならば、こうしたリツイートを現実におこなう時の慎重さも必要だろう。
*1:田村由美の別シリーズ作品と比べても描線がややラフなので、視覚的な伏線の厳密性に欠けると思うことがある。漫画としては読みやすいのだが。
*2:なお、問題化の責任をフェミニズムに負わせている問題と、史実への懐疑はまた違う問題ではある。
*3:そもそもアフロヘアではなく天然パーマで、主人公が望まず目立つ髪型になっている設定なのだが……
*4:srpglove氏が以前から何度かリツイートしているのを見かけているので、許容している可能性も高そうだが。逆に私は「まつうら姫@lyricalium」氏を以前に別の文脈で批判したことがある。こちらのエントリのコメント欄を参照。 hokke-ookami.hatenablog.com