法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

歴代ジャンプラ史劇読切3選

 WEB漫画サイトのジャンプ+が、十周年を記念した読切ポータルサイトを一週間ほど前に公開した。
読切ディスカバリー | 少年ジャンプ+10周年を記念した読み切りだけのポータルサイト
 そのなかに読切をみっつ選んで画像化するジェネレータもあった。
ジャンプラさんの歴代ジャンプラ推し読切はさよなら絵梨 ヒトナー 静と弁慶 - わたしの歴代ジャンプラ推し読切ジェネレーター
 最初に思いついた作品『静と弁慶』が公式の選んだなかに入っていたので除外することにして。
 膨大な作品数からしぼりこむため、『静と弁慶』にも通じる歴史というテーマで選んでみた。

読切作品の『モンキートリック』と『皇の器』と『続く道 花の跡』の各アイコンを横にならべた画像


『モンキートリック』は、衝動ではなく計画による殺人という概念が人類社会に誕生した瞬間を描いた歴史ミステリ短編として楽しめた。映画『2001年宇宙の旅』の冒頭を思わせる文明SFのような読み味もある。余所者の探偵だけでなく犯人も「進化」した背景も説明してほしかったし、もう少し台詞回しに調節は入れてもいいとは思うが、コンセプトそのものの面白味がつたわるだけの完成度はある。
モンキートリック - 桝本力丸/ロボット | 少年ジャンプ+
『皇の器』は、すぐ見てわかる絵の細かさと漫画らしいコマ割りの巧さで、架空史劇としてのリアリティが高い。宮廷らしい政争と戦闘で娯楽性を担保し、長いストーリーを読ませる。そして中華風の一枚絵をつかって表現した、歴史をこえてつたわる人の愛の重みが印象深い。
皇の器 - 織部匡 | 少年ジャンプ+
『続く道 花の跡』は、技術の発展史をささえた名前の残らぬ女性たちを描き、史実短編漫画として完璧。映画『ドリーム』を連想させるが、完全に独立した中編として完成されている。技術の発展だけでは社会問題を解決できないことにも留意する視野の広さ。家父長制のなかで抑圧されていた女性たちが葛藤し、それでも残そうとしたもの。それが現在につながる構成の美しさ。
続く道 花の跡 - ななせ悠 | 少年ジャンプ+


 他に選外の作品もいくつかある。
『嘘つき大工と神様の木』は、昔話のようなファンタジー作品として悪くないが、歴史テーマにギリギリ外れていたので落とした。伏線はうまいし、良い意味で人間関係がせまくて舞台劇のようなスケールから、一気に現在へ接合することで世界が広がる。ただしコマ割りは読みやすいものの、各コマにおける人物の大きさに変化がとぼしく、奇妙な単調さを感じるところがある。それも舞台劇のような印象の原因ではあるが。
嘘つき大工と神様の木 - フィビ鳥 | 少年ジャンプ+
『遥かに望む』は、きびしい意見にも同意できるが、周囲が同化するなかで抵抗する米国先住民を描いた珍しい作品として、見どころある読切と思う。ただ上の作品群と比べると歴史や社会や敵対者の厚みが足りない。読むかぎり先住民と開拓民が狩猟資源を争っていた時期だと思うし、最後は動物愛護団体を台詞で持ち出すよりも、先住民が勝手をするなという意味の叫びにしたほうが良かったと思う。
遥かに望む - 池田大剛 | 少年ジャンプ+
『二人ぼっちロマンス』は、抑留者のトラウマを正面から描いた内容は挑戦的で、がんばっているのはわかるし小説ならゆるせるが、いくらなんでも背景のディテールが甘すぎる。直線だらけで日本家屋らしさがない。アパートに時代的なリアリティがない。当時を写した資料は著作権が切れたものも多いだろうし、そのまま模写して背景につかったり、いっそ素材としてとりこむだけでも、最低限のリアリティが確保できると思うのだが。
二人ぼっちロマンス - 押石和佳 | 少年ジャンプ+