法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ラムザイヤー論文批判記事にからんで、慰安婦の写真が誤用されているリプライが衝撃的だった

経済学者ラムザイヤー氏の慰安婦論文が批判されていることは先日も言及したが*1ザ・ニューヨーカー誌に日本語の批判記事が掲載された。
www.newyorker.com
ジニー・ソク・ガーセン氏の批判は端的にまとまりつつ、ラムザイヤー氏の同僚としての心象も興味深いところがある。
批判しつつラムザイヤー氏の学問の自由を重視する言明もしている。日本政府の妥協策もかなり好意的に記述され、韓国内の反妥協意見は疑問視している。
さらに韓国の極右団体がラムザイヤー氏を擁護しようとして、ガーセン氏の出自を個人攻撃するメールを送ってきたことも紹介されている。


そんなガーセン氏の批判記事を、和訳担当者として永原宣氏がツイートで紹介していた。

リツイートや引用ツイートは好意的な紹介や記事への具体的な注目が多いようだが、リプライは反発が目立つ。
たとえば、日本政府による学問介入に対抗してラムザイヤー批判にも意見をのべたアレクシス・ダデン氏に対し、批判のみが「批評」に掲載されているWikipediaが示された。

しかし古森義久氏の一記事に「批評」もふくめて多くを依拠し、もうひとり「批評」が引用されているジョージ・アキタ氏は専門家だが出典が草思社の書籍。記事の信頼性は察するしかない。


さらに目を引いたのが「佐々木剛志@B0igxghAfDJFQcH」氏による、「李承晩に強制連行で連れて来られました」と「朝鮮戦争の時の慰安婦」を紹介するリプライだ。

そもそもガーセン氏や永原氏の文章と「朝鮮戦争の時の慰安婦」の関係がわからないが*2、写真のキャプションの意味はもっとわからない。

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どのように作られた画像なのかは知らないが、「朝鮮戦争慰安婦」という見出しと、「もっと体を売りなさい。あなたがたはドルを得る愛国者だ」という韓国政府の発言に違和感しかない。
まず右の写真は明らかに日本軍慰安婦の有名な写真で、捕虜として保護した米軍が撮影したものだ。背後の男の立場ははっきりしないが、少なくとも「朝鮮戦争」とは関係ない。
慰安所の生活 慰安婦問題とアジア女性基金

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さらに左の「朝鮮戦争慰安婦」は、Wikipediaの「韓国軍慰安婦」項目に掲載されているが、写真のキャプションは「韓国・アメリカ軍に捕えられた北朝鮮軍看護婦」だ。
韓国軍慰安婦 - Wikipedia

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キャプションはつづけて「捕えられた北朝鮮女性はレイプされたり強制的に慰安婦にさせられることもあった」とあり、「韓国軍慰安婦」と関連はしているが「慰安婦」そのものではない。逆にWikipediaが引用したキャプションが誤っていて、実際に李承晩政権が強制連行した米兵向け慰安婦という可能性もあるが、それはそれで写真の証拠能力がキャプションに左右される実例といえるだろう。
分断国家の敵側を愛国者と呼ぶことはあるかもしれないが、以前に性行為する立場ではなかったと思われるので、「もっと体を売りなさい」という台詞もふさわしくない。


さすがに有名な右はリプライで間違いも指摘されているが、ほほえましさすら感じるやりとりがはじまっていて、苦笑するしかなかった。

「間違えて画像を使ったただけ」「左翼の揚げ足取りは本当に悪辣」「間違ったら直せば良いので大丈夫」といった言葉に、誤用写真を訂正した森村誠一氏らへの評価を思い出さずにいられない。「パヨは間違ってても直さない」という言葉も、いまだツイートを訂正していない「佐々木剛志@B0igxghAfDJFQcH」氏は何なのだろうと思わせる。
もちろん問題は「佐々木剛志@B0igxghAfDJFQcH」氏という個人にとどまらない。学者の論争へリプライを送るくらい話題に興味関心があるのに有名な写真に気づかないこと、元となった画像をつくってキャプションとともに広めた源流がどこかにあること、そして訂正が知られていないかあるいは訂正そのものが存在しないこと、といった問題が残されている。
今回は短時間で簡単に調べただけなのでわからなかったが、何らかのイベントでつくられたパネルを撮影したようにも見える。だとすれば、よほどの無知あるいは無恥をかねそなえつつ、行動力をもった人物がどこかにいるはずだ。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:日本軍慰安所制度の特異性を主張していないので、少なくとも反証にはならない。日本軍慰安婦朝鮮半島の家父長制が関係しているというサラ・ソー氏の説を好意的に引いていることから、しいていえば賛同リプライと読めなくもないが……