法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第37話  人魚の記憶! 海のリングを取り戻せ!

発見した指輪がバトラーに奪われながらも、プリキュアは女王たちがとらわれている場所にもどって助けようとする。そこで知ったのは、人魚と人間が知りあった長い歴史。しかしその保存された記憶のひとつがローラをひとり悩ませる……


原画複数の青山充作画監督回。新必殺技バンク用のアニメーターは入っているが、前編で負けた相手にリベンジするアクション回としては画面が弱い。
その新必殺技の発動条件となる指輪が、鏡をとおって瞬間移動してくる御都合主義もどうかと思った。「伝説のプリキュア」が介在しているなら、それをピックアップして納得できる描写にしてほしい。


それはさておき、前回で引っかかりをもたせた人魚の国の記憶をすいだす装置について、さっそく女王が説明して設定開示。
hokke-ookami.hatenablog.com
前回に言及した神格が一般人とは異なる次元の判断で動いた『スター☆トゥインクルプリキュア』ではなく、おそらくその前例となった『ハピネスチャージプリキュア!』の神格が他者との軋轢を恐れた禁忌に近いか。
hokke-ookami.hatenablog.com
そこで記憶をうばうという暴力的な装置をつかうこと、それが物語になるような長い歴史でつかわれつづけたことで、ひとりの超常的存在の私情ではなく全体主義の恐怖と感じさせる。
そしてそれが興味深くも背景を描くだけの設定開示に終わらず、ローラだけでなく主人公としての夏海のドラマにもむすびつく。作品のなかで世界と個人のありようがたがいを補強するように存在し、そしてそれが葛藤を生む。
他人と距離をすぐ縮めて今この瞬間を楽しもうとする夏海は一種の強迫観念で動いていて、傲岸不遜に次期女王を自認するローラは成長の糧となる出会いの体験を奪われていた。この方向を期待していなかったこともあって感心したし、主人公とパートナーがこれまで見せてきた歪みがさかのぼるように味わいを増す。
このシリーズの方向性ならば人魚の国のありようは否定されていくだろう。しかし禁忌が未来まで堅持されて、大人になって社会のなかで摩耗した夏海が、海辺で出会った奇妙な女に目をそむけたい感情をおぼえながら無意識に涙を流す……みたいな定番の最終回をむかえてもそれはそれで良いかもしれない。