法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

話数単位で選ぶ、2025年TVアニメ10選

 特筆したい視点があったり、埋もれそうなエピソードを掘りおこす企画のため、各作品1話ずつで順位はつけない。

ドラえもん』深夜の町は海の底/映画に出たい、ドラえもん!?/天空城の秘宝!~Legend of the True Hero~
『悪役令嬢転生おじさん』第4話 おじさん、ビーストを召喚する
『俺だけレベルアップな件 Season 2 -Arise from the Shadow-』第18話 Don’t Look Down on My Guys
魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』第9話 それぞれの世界
『ウィッチウォッチ』episode 06 縁結びの樹の下で
『雨と君と』第5話 同じ月
おそ松さん』第12話 夏の終わり
『ガチアクタ』第21話 TIME ATTACK
僕のヒーローアカデミア』169話 笑顔が好きな女の子
『私を喰べたい、ひとでなし』第9話 焼け付いた祈り

 アニメファンの個人が発案した企画だが、現在はWEBサイトaninadoが集計をひきついでいる。
aninado

・2025年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
・集計対象は2025年中に公開されたものと致しますので、集計を希望される方は年内での公開をお願いします。

 良作になりそうだと思った作品は視聴を後回しにすることが多くなり、さらに感想を書く時間も不足しがちで、企画の趣旨にあった話数を選びづらいところはある。
話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選 - 法華狼の日記
 しかも今年は、例年以上にアニメ作品の傾向として話数単位ベストテンという形式が難しくなりつつあるのではないか、ということを感じてしまった。それは後述のように必ずしも悪いことではないのだが。

ドラえもん』深夜の町は海の底/映画に出たい、ドラえもん!?/天空城の秘宝!~Legend of the True Hero~

 誕生日1時間SP自体の出来も例年のように良かったが、今回は枠移動後に恒例となった通常回との同日放送と同じネタで違う料理をする工夫なども楽しかった。
『ドラえもん』深夜の町は海の底/映画に出たい、ドラえもん!?/天空城の秘宝!~Legend of the True Hero~ - 法華狼の日記
 のび太ドラえもんの関係が、古典的な箱選びに収束するクライマックスも良かった。贈り物は誰が何のためにおこなうのかという問いを、謎かけに組みこんでドラマチックに説得力をもたらしている。

『悪役令嬢転生おじさん』第4話 おじさん、ビーストを召喚する

 珍しく原作を相当に既読の作品。まさかTVアニメ化するとは思わなかったが、実は厳密には転生ではないと明らかにされるこの第4話がアニメという媒体を活用していて素晴らしかった。
 いつもの転生ストーリーを手堅く消化しつつ違和感ある描写をいれたAパートに、裏側の現実世界の出来事をBパートで描写。これまでつみあげてきた主人公の実直な人格に、それをとりまく家族のドラマとして再構成。
 主人公がヒロインやビーストに我が子を幻視する演出も予想外に感動的だったし、現実世界で発話する娘と妻が口パクではなく顎をきちんと動かすように作画していることで現実の生々しさを表現できていた。作画アニメの過剰芝居をこのように活用する演出そのものが面白い。

『俺だけレベルアップな件 Season 2 -Arise from the Shadow-』第18話 Don’t Look Down on My Guys

 TVアニメで複数勢力が入り乱れる総力戦として見ごたえがあり、なおかつ動かすだけではなく勢力を区別しやすい映像の見やすさがあり、各勢力の微妙な強弱差も描けていたことに感心した。
『俺だけレベルアップな件』雑多な感想 - 法華狼の日記
 もちろん主人公ひとりが突出して強すぎる典型的なチート作品ではあるが、そうではない立場のキャラクターなりの経験や強さ、考えもきちんと描こうとしている。

魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』第9話 それぞれの世界

 Aパートの謎をBパートの別視点で解く構成が面白いし、それが世界に複数の視点があるというドラマにもなっている。そう考えると、ジャーナリストを誠実な存在として位置づけたのは、異なる視点の重要さを描く意味もあった。
『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』雑多な感想 - 法華狼の日記
 深夜アニメとなったことでシリーズ初期のような本気のホラータッチが楽しめたことも良かった。

『ウィッチウォッチ』episode 06 縁結びの樹の下で

 大島縁が一人でコンテ演出作画監督を手がけ、一人原画もやりきったエピソード。枚数をつかって動きまわるわけではなくても、雰囲気の出ているキャラクター作画で全編が統一されて満足感がある。
 小規模な新興制作会社のバイブリーアニメーションスタジオが2クールのTVアニメを一定の安定度で作りきったとはいえ、やはり制作リソースが潤沢ではなさそうな作品だった。だからこそ、ひとりにまかせることで無駄をなくしつつクオリティを高めたこのエピソードが印象に残る。
 同時期にWITスタジオが全力で制作して、一人原画回も素晴らしかった『真・侍伝 YAIBA』もあるが、話数単位ベストテンの趣旨にそった作画回はこちらだろう。

『雨と君と』第5話 同じ月

 純粋に、今年に見た今期のTVアニメで最も大笑いしたエピソードだったので。
『雨と君と』雑多な感想 - 法華狼の日記

おそ松さん』第12話 夏の終わり

 一世を風靡しながらもシーズンを重ねるごとに評価の落ちている作品で、特にこの4期はダウナーでスローモーな物語が目立った。
 しかしそうした作風の変化が、視聴者の需要に素直に応じることを良しとしなかった結果なのだとしたら……事実上の最終回において正面から反戦と慈善をたたえたことに時勢にあらがう意味を見いだすべきではないか、とも思った。
『おそ松さん』4期の雑多な感想 - 法華狼の日記

『ガチアクタ』第21話 TIME ATTACK

 強敵の初戦闘と主人公の新技の披露エピソードだが、戦闘そのものは決着がつかず、物語としてはいわゆるつなぎ回でしかない。それでもひとりの凄腕アニメーターがコンテにかかわり要所の原画を担当するだけで、ここまで映像として充実するのだということ自体に驚きがあった。
『ガチアクタ』第21話 TIME ATTACK - 法華狼の日記

僕のヒーローアカデミア』169話 笑顔が好きな女の子

 アクション回にも名前が出ず、同期同社の『ガチアクタ』第21話に全力参加していたので中村豊の登板はないかと思いきや、最終回一話前の第二原画にクレジット。内容自体はアクションが少なく動かない画面で情感を出したシーンが多くて、コンテを担当した長崎健司総監督の現在の指向はこうなのか、と思った。
 序盤のフェイクドキュメンタリーっぽいタッチも、この作品では珍しい客観視点で良かった。マスメディアのコメンテイターの悪魔化は良くも悪くもパターンだが、テロリストの心情や背景は無視すべきと切りすてようとする意見と、記憶しようとする主人公たちの対比的な構図が、安倍晋三殺害犯の裁判が急速に進む現在の報道状況とオーバーラップする。制作者の意図したタイミングではありえないだろうが、それぞれの立場の「僕のヒーロー」を知ろうとするエピソードが今ここで放送された意義もあると感じられた。

『私を喰べたい、ひとでなし』第9話 焼け付いた祈り

 主人公と妖怪の決定的な衝突を描いたエピソードで、あまり作画枚数をつかわず背景美術も描きこまない*1作風のまま、古典的な対比で分断をきっちり表現してみせた演出回として印象深い。
『私を喰べたい、ひとでなし』雑多な感想 - 法華狼の日記


 以下、選ばなかったが印象深い話数をいくつか。
『キミとアイドルプリキュア♪』第14話は子供向けアニメで描く母の日の物語として、ほぼ完璧だった。子供に夢を見せてきたシリーズでひさしぶりに人の死や貧しい家庭を描いたところも目を引く。当時の感想*2で書いたように、必殺技が合体技になっている疑問点さえなければ選んだのだが。
『アポカリプスホテル』第5話は、Boichiの短編SF漫画『HOTEL*3のような設定でも『21エモン』のような連作SFをライトに展開する作品と予想させたところで、『HOTEL』のような長大な時間スケールを描くSFだということをウイスキーという身近な題材で提示した。時間による熟成と、それにより変化する人間関係のドラマが一話できっちり完結している。同時に、このエピソード以降の作品全体のコンセプト説明にもなっている構成がすごい。
SPY×FAMILY』第40話は、前回から続く回想回だが、前回の前半のギャグエピソードが最後の最後に回収される構成は面白かった。しかし、連載で一部分だけ読んだ印象では、もっと力を入れた回にしそうだと期待していたのに、案外と絵作りは通常回との差異がなかったのが残念。いつものOPEDが関連していると感じさせるところは良かったが、一昔前のTVアニメならこういうエピソードは前後の話数のクオリティを落としてでもスペシャルなスタッフを集めて力を入れそうだ。クオリティは安定して高めだが突出はさせないため連続ストーリーとしての起伏を感じづらい近年のTVアニメの傾向が、せっかくの素材を肩透かしにしてしまった印象がある。クレジットによるとシナリオには関わっているらしいが、こういうエピソードだけでも古橋一浩監督にリソースとスケジュールを用意して、『るろうに剣心 追憶編』ばりの作品にしてほしかった。


 2025年に印象に残ったTVアニメは、実はNHKで放送されたが元はそれ以前に配信されたWEBアニメの『SAND LAND』と『GAMERA -Rebirth-』だった。どちらも3DCGを主軸にしたアクションで、予告の印象よりも見ごたえがあり、1クールで軽快な娯楽活劇としてまとめていた。全話完成後に納品させ全話一挙配信するネットフリックスの方針が、少しずつ良さを積みあげていく作風にはマッチするのだと感じられた。
 それと同時に、ネットフリックスの方針が無関係な作品にも波及している気配を感じている。それはアニメ制作の無理を減らすことには意味があると思われるし、少なくとも映像は一定の安定が期待できることにつながる。しかし同時に、かつてなら個別回のスタッフが奮闘して突出した一部のエピソードだけ見ごたえが生まれるような体制の作品が、全体をとおして悪くない出来になることにもつながっているのではないか、と感じるようになった。作品自体が意外な拾い物だったという意味では『野生のラスボスが現れた!』*4がそうだし、話数単位で選んだ『私を喰べたい、ひとでなし』も作品全体で意識的に低めに安定させている気配を感じている。長期作品であっても、たとえば子供向けに新規立ち上げをおこなった『プリンセッション・オーケストラ』ですら、あまり動かさずアクションはバンク作画だよりでキャラクター作画は安定させて、作画の個性が目立つ回が存在しない。クオリティが高めの作品にしても、たとえば昨年は選んだ『小市民シリーズ』が2期が連続ストーリーになったことで、作画も演出もまんべんなく見どころがあって逆に選べなくなってしまった。
 くりかえしになるが、この傾向がつづいて全体に波及するとすれば、それ自体はアニメ業界にとってもアニメ愛好家にとっても悪いことではないだろう。しかしTVアニメを見つづけて予想を裏切り期待を上回る回に出会う可能性が少なくなるのだとすれば、それは少しさびしいと感じる。