法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season15』第10話 帰還

煙たがられていた杉下と亘は、駐在所へ臨時移動となる。ふたりが行った黒水町はさびれており、問題のある警官の左遷先となるほどだった。しかし元IT企業社長の和合町長による前科者受け入れ政策で、少しずつ再生しつつある。
しかし5人の警察官が行方不明になった事件の容疑者として、仲良くなった喫茶店の青年が疑われる。それが地元CATV記者や警視総監まで巻き込む大事件の始まりだった……


このドラマ恒例の元日2時間SP。脚本の真野勝成は前期や前々期から元日SPを担当している。
『相棒season13』第10話 ストレイシープ - 法華狼の日記
『相棒season14』第10話 英雄〜罪深き者たち - 法華狼の日記
シロクマのキグルミに警察官が暴行されるというギャグ一歩手前の導入は嫌いではない。
限界集落と犯罪者更生をくみあわせた舞台設定も悪くない。
甲斐峯秋や大河内春樹や社美彌子など、サブレギュラーが物語にからんでくるのもSPらしさをもりあげる。
茶店の青年が犯人視されるにいたるトリックの人工性も好みだ。
ススキが一面においしげる野原や、錆びついた鉄橋といったロケーションも、SPらしい情景を生みだす。


しかし真相に、推理が不可能な要素を大きくふたつも入れているのは好みではない。
「タカハシ」という名前が8年前に黒水町で影響をもった宗教的な指導者の名前という伏線がなさすぎるし、そんな人物が警察に自殺させられた復讐として団地住民が一丸となるという真相が中盤であっさり明かされる。団地の住民が全員で口裏をあわせるという共犯トリックは本格ミステリのような人工性で良いのだが、その面白さを充分に引き出さないまま次の展開に進んでいってしまう。
そして物語の起点にいた和合が真犯人と明らかになるが、怪しいわりに伏線がなさすぎる。IT企業社長という前歴は、警察システムのクラッキングや外国特殊部隊を雇う資金の根拠として、万能な説明として安易に使われる。動機にいたっては、ただ殺人衝動を満たしたいという愉快犯でしかない。
前々期の「飛城雄一」もそうだったが、真野脚本は特異な犯人像にたよりすぎているきらいがある。せめて和合かタカハシの一方に事件の基盤を置いて、伏線を入れつつ人物像をほりさげれば、ずっと納得できるドラマになったろう。
たとえば、背後であやつっていた真犯人など出さず、カルト化した限界集落が集団で国家に復讐する物語にすれば、刑事ドラマで他に類をみない大規模な共犯者トリックとして印象深く、同時に社会派ドラマらしい体裁も守れたと思うのだが……