法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』バランス注射/お金なんか大きらい!/初日の出セット

新春のおくりものとして、番組冒頭でドラえもんが3本立てと宣言。しかし一時期は3本立てがつづいていたこともあり、あまりスペシャル感はない。どちらかといえば全て新年ネタにそろえた原作選定にスペシャル感があった。
ED前に映画主題歌のグループが登場し、次回の本人役での出演を告知するとともに、EDの主題歌と映像が変更。しかし映像を見ていると宇宙戦闘らしきシーンにもパピが参加しているようだ。皆が戦闘準備しているところでパピが単身でしずちゃんと人質交換に行った原作をアレンジして、ともに戦う局面を増やしているのだろうか。


「バランス注射」は、新年早々に不幸が連続したのび太のため、幸運のバランスをとる秘密道具が登場。さっそく幸運が連続して舞いこむが、連続しすぎて断るはめになり……
2005年リニューアルから初めての映像化。新年1発目で、さっそく主人公を悪夢につきおとす原作選定に藤子Fテイストがある。
通常枠に3本立てで描写を追加する必要が少ないためか、全体の流れは原作を踏襲。そこで秘密道具の出番が注射するだけでなく対象の顔に変化し、ヤジロベーのように飾られるアレンジが良かった。きしむような音とともに少しずつ水平になっていく秘密道具が、バランスとしての幸福がおとずれる段階で不穏さをただよわせていく。
また、過去回*1でフィギュアが登場した橋本環奈ならぬ旗本カンナが交通事故未遂で登場し、おわびにサインを書いてあげたりする。ヒールの高い靴をはいていることもあり、のび太より背が高いあたりモデルの特徴をとらえている。
ただ、大きな幸福に対するバランスとしての不幸は原作では完全に読者の想像にたくすオチだが、今回のアニメ化では宇宙空間で地球に隕石が向かっているらしき絵がうつる。映画宣伝をかねた描写かもしれないが、ここは断ち切るように終わる原作を再現してほしかった。


「お金なんか大きらい!」は、お年玉の少なさをのび太が抗議するが、父がとりあってくれない。父はのび太がねだってこないようドラえもんに秘密道具をたのむが……
2本目も正月ネタ。GONZO系作品で活躍していた、どちらかとえいばアクション演出の印象が強いソエジマヤスフミが、まさかの作品初参加。
前話につづけて物欲全開ののび太。父子が相手の思考を操作する飴を同時にプレゼントするシュールな構図が楽しい。金や家財を他人に与えて身軽になろうとする姿は、原作発表時にはなかった断捨離という概念を先取りしているように思えた*2
これもほぼ原作通りだが、ドラえもんがあわてて父をフォローしようとした時に間違って出した秘密道具を投げ捨て、それを皆がなぜかなめたことで街全体に事態が広がっていくアレンジが入っている。群衆が誰かに財を押しつけようとする情景がシュールで楽しい。そのモブが完璧に動いているわけではないが、TVアニメとして成立するくらいのアニメーションになっていたのも良かった。


「初日の出セット」は、スネ夫が家族で見た初日の出を自慢して、のび太は来年に早起きできるよう母にたのんで、あきれて怒られる。そこで秘密道具で疑似体験することに……
3本目は善聡一郎コンテで、イベントをミニサイズで疑似体験する、原作の定番パターン。スネ夫の自慢に対抗して、まずのび太が自室で、しずちゃんジャイアンをさそって裏山で秘密道具の初日の出を見る……
スネ夫が太陽について平等な存在と論評し、ひとりじめにしたいと語るキャラクター描写が楽しい。ジャイアンとは一味違う文学的な独占欲。しかし温室でもないのに日光浴を楽しめる気温だろうか?という疑問はある。
また、前2本がお年玉をもらうくらいの時期なのに、朝になったと剛田母が秘密道具のせいで誤認してジャイアンが登校するはめになるオチは、ちょっと理解が遅れた。放映日こそ冬休みは一般的に終わっているが、ここは冒頭を空き地ではなく下校風景にして、もう学校がはじまっていると視聴者に劇中の時期を知らせておくべきだったのではないか。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:喜捨はもちろんあったが。