法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season19』第8話 一夜の夢

客引きしていた男が、縄張りを荒らしたという理由で暴力をふるわれ、ゴミ捨て場に倒れこむ。少し後、男は政治家の娘と出会い頭にぶつかり、そのスマホを入手する。
そして男は娘へ結婚をせまり、それを特命係が目撃する。少し後、娘の本来の婚約者が殺されたが、客引きの男にはバーで飲んでいたアリバイがあった……


金井寛脚本と杉山泰一監督で、社会の底辺に落ちた男の愚かなあがきをドラマチックに描いた。
はっきりいってミステリとしてはダメダメで、アリバイはただ共犯者がいただけ。その人物が共犯者であることも後から出てきた証拠で判明するし、その証拠の情報は解決編まで視聴者に見せない*1。そのアリバイ自体、特命係が指摘するように最初から強固なものではない。
殺された婚約者の若社長がリストラを断行する人物であることが、リストラ犠牲者が犯人かもしれないと捜査一課をまどわしつつ、真相の人間関係の伏線になるのはドラマとしては良かった。しかしミステリとしては、たとえば殺人現場の声を聞いたホームレスもリストラ犠牲者で、若社長への恨みから捜査を誤誘導していると思われるくらい、ひねりをいれてほしかった。


客引きの男が不遇感にさいなまれ、決定的な証拠から恵まれた者へ復讐しようとした……というドラマの主軸は悪くないと思う。その復讐の主標的が娘ではなく、奪われた立場をとりもどすことが目的だったという構図の逆転もいい。
ある意味で社会への復讐であることから、かなり計画がいきあたりばったりなことも、けっこう偶然だよりなことも、追いつめられた心情からの一種の賭けだと思えば寓話として理解できる。
結末の屋上の風景はドラマとしては良い撮影で、曇り空も雰囲気を作っていた。いつものように復讐の理由が誤認だったと指摘したりはせず、客引きの男が未来を奪われたことが事実としてあつかわれるのも、いっそうやるせない。
全体的に演技や演出は良かったし、真相の意外性や計画と解明の巧妙さがあれば、傑作エピソードになるポテンシャルはあったと思うのだが……

*1:映していない手がかりを解決編で回想する問題も先日のエピソードと同じ。本当にやめてほしい。『相棒 Season19』第6話 三文芝居 - 法華狼の日記