法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『呪怨 ビデオオリジナル版』

 小学校教師の小林俊介は妊娠した妻に悩みをうちあけた。佐伯俊雄という少年が不登校だという。俊介は、俊雄とその母親の印象に引っかかりをおぼえながら佐伯家を訪問する。そこはゴミ屋敷のようになっていて、アザだらけの俊雄がほうけていた……


 清水崇の初長編作品として1999年に販売されたVシネマ。『リング』の高橋洋監修という売りで、断片的な恐怖をシャッフルした構成が話題になり、現在まで展開される人気シリーズとなった。

 ビデオ撮影されたVシネマなので、小さな配信画面ならともかく、ハイビジョンで視聴すると驚くほど画面が安っぽい。しかし庭木や窓格子ごしに俳優を映した構図は奥行きがあり、全体が見えないからこその恐怖感もかもしだされている。窓から光がさしこむだけの薄暗い屋内描写も、人のいとなみがあるべき場所で人のいとなみがおこなわれていない不安感があった。
 さすがに肉体が損壊したCGはクオリティが低く、造形物も基本的にはVシネマレベルのチープさだが、実際の家屋や校舎で物理的な存在を映してカメラ位置にもこだわっているため、同種の低予算ホラーと比べて見ごたえがある。超常的な恐怖を直接的に見せるJホラーでは珍しい方針は、オーディオコメンタリーによると、霊を半透明に見せるよりは撮影技法による描写ではないと感じてもらいやすいという判断だという。
 俊介を演じる柳ユーレイをはじめキャスティングも良くて、後述のラストエピソード以外は演技も安定している。ブレイク直前の栗山千明を1エピソードの主演に起用できた幸運もあって、どのキャラクターもおおむね魅力的だ。
 この作品は普通の映画より短いとはいえ一時間十数分あるのに、わずか4日間くらいの早撮りだったことにも驚かされる*1


 物語は断片的な不条理と物理的な恐怖がこきざみにおとずれるだけで、多くの描写はシリーズをかさねてパロディされて消費されてしまったが、飽きずに最後まで見ることができた。
 簡易な照明としてライターを活用するため喫煙シーンを挿入したり、携帯電話を教師に見えないように持つことで印象づけたり、各エピソードの小道具を自然に登場させる芸の細かさがあるので見やすい。
 呪いの伝播が広すぎ強すぎて謎解きとしては不条理なのに、普通のホラーとは逆に頭上から恐怖が近づいてくる原則で統一感があったこともいい。その原則には住宅を中心的な舞台にした必然性がある。
 しかし、ここで終わりかと思ったところから新たなエピソードがはじまり、恐怖の収拾が描かれた時は、いきなり台詞と演技が安っぽくなってビックリした。オーディオコメンタリーによると初期の脚本には存在しなかったらしく、さすがに急造の無理が出たのか、ひとりごとの説明臭さが不自然でしかたない。もっとも収拾は成功せず、不条理な恐怖が持続して終わったので結果として印象は悪くないが……

*1:オーディオコメンタリーによる。重なるように撮影した2作目とあわせて9日間。