法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ルワンダ虐殺で人命を守って映画化された人物のテロ容疑と、映画をめぐる葛藤

植民地時代につくられた民族対立が尾を引き、数十万人以上が虐殺されたルワンダ
そこで千人以上の客を保護したホテル支配人ポール・ルセサバギナ氏の逸話は映画化もされた。

国際社会に見捨てられて孤立しながらぎりぎりの交渉をつづける主人公の姿は、たしかに映画として感動的だったし、社会の流れに抗う大切さを印象づけられた。


しかしポール氏は亡命後にルワンダの新政権と対立をつづけ、先月末にテロ容疑者として逮捕された。
「ホテル・ルワンダ」の英雄、テロ容疑で逮捕:時事ドットコム

報道官は記者団に「ルセサバギナ氏は、武装過激テロ組織の創設者か指導者かスポンサーかメンバーとして、地域や海外のさまざまな場所で活動していた疑いがある」と話した。逮捕された場所や方法には言及しなかった。

ルセサバギナ氏は、米国の文民最高位の勲章である「大統領自由勲章」を受章するなど世界的な称賛を得た。一方、ルワンダのカガメ大統領らは、ルセサバギナ氏が営利目的で虐殺を利用していると非難。同氏は組織的中傷だと訴えていた。

ルワンダ政権の不可解な動きにはポール氏を賞賛した米国から公式な懸念が出されてもいる。
映画『ホテル・ルワンダ』の英雄逮捕の謎、高まる懸念 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

約25年前から国外で亡命生活を送っていた同氏の逮捕と母国送還の謎をめぐって懸念が高まっており、米国のティボール・ナージュ(Tibor Nagy)国務次官補(アフリカ担当)は2日、同氏に対する公正な裁判を要求した。

ナージュ氏は2日、駐米ルワンダ大使と面会。ルセサバギナ氏の逮捕について議論し、「米国はルワンダ政府に対し、法の支配を徹底し、同氏に対して人道的な処遇と公正かつ透明性のある法的手続きを取ることを期待する」と述べた。


ちなみに『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督は、それ以前にアイルランド独立運動と爆破テロ冤罪をあつかった『父の祈りを』で製作総指揮と脚本をつとめた。

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たしかにイギリス都市部での酒場の爆破は残酷で陰惨だが、アイルランドにおける暴動は武装した公権力への一般市民のなけなしの抵抗に見える。主人公は愚かな不良だが、良くも悪くも社会運動へのかかわりは薄い。
圧政への抵抗が実力行使をともなう時、テロリズムとして全否定することは困難であること。容疑者にどれほど人間として問題があろうとも、司法の濫用はそれ自体が圧政の証明であること。
そうした作品の延長上にポール氏の行為が映画化されたのだとすれば、今回のカガメ政権のふるまいはあらかじめ批判されているとも解釈できる。


そもそもルワンダでカガメ政権が虐殺を終息させ、高度成長をはたしていることは事実だが、20年にわたる長期政権の独裁状態が懸念されてきたこともまたたしかだ。
ルワンダの光と影 – GNV
経済発展そのものも、開発独裁というだけでなく、コンゴ民主共和国への侵攻によって達成された側面もある。

コンゴ民主共和国の反政府勢力を率いて、ルワンダの国土面積の何倍にも及ぶコンゴ民主共和国東部を支配していた事実がある。

さらには、ウガンダとともにダイヤモンドやコルタン(電化製品の原料に使われる天然鉱物)、木材や象牙の搾取・略奪も行っていた。そしてこの占領は2002年の和平合意まで続いた。

ルワンダのマスコミに、現政権や大統領選挙への疑問や批判を書いた記事はほとんど存在しない。少しでも批判的な内容を書くと、すぐさま政府から弾圧を受け、ジャーナリストたちは投獄されたり、国外に飛ばされたり、ひどい場合は命を奪われることもある。

憲法で制限されていた任期を改正で延長したことと、米国の反対をおしきって今も大統領の座についていることにいたっては、あまり他人事ではない*1

元来ルワンダでの大統領の任期は2期までであり、3選は憲法違反で禁止されていた。しかし、カガメ氏は2015年に憲法を改正し、2034年まで大統領職に留まることが可能となった。大量虐殺以降のカガメ氏の改革に賞賛を送り続けてきたアメリカも今回の再選には反対しており、辞任することを勧めている。これに対して、カガメ氏は「国民が私に2017年以降も大統領であることを望んでいるから、私はそれを受け入れるだけだ。」とコメントしており、三選への姿勢は崩していない。


また、ルワンダ虐殺を題材にした映画は『ホテル・ルワンダ』が有名だが、在留外国人の視点で描いた『ルワンダの涙』という作品もある。

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英雄劇ではない淡々とした群像劇なのでドラマとしては弱いものの、英雄などいない状況そのものを描いたとも感じられた。
『ルワンダの涙』 - 法華狼の日記

ホテル・ルワンダ』が状況に対する英雄的行為を描いた劇映画とすれば、『ルワンダの涙』は状況そのものを克明に描写した劇映画といえる。
個人の英雄劇ではないので、娯楽らしい高揚感は抑えられている。物語のまとまりは少し足りないが、隣人が信用できなくなる恐怖という一面ではすぐれていると感じた。

しかし『ホテル・ルワンダ』がカガメ政権から批判され、『ルワンダの涙』はルワンダ現地の協力をえてカガメ大統領から推薦を受けたことは、映画をそれ単独で評価することの難しさを感じさせる。

*1:第二次安倍政権下で自民党総裁の任期が延長されたし、さらなる延長への動きも見られた。 安倍首相の総裁任期延長も 自民・甘利氏:時事ドットコム