輸入雑貨がSNSで人気の女性が転落死する。つきおとした犯人と通報されたのは、元イケメンシェフの知人男性。発言の炎上で人気を失い、女性と金銭の貸し借りがあったらしい。
しかし特命係は通報した主婦の態度が完璧すぎることに興味をいだく。そして主婦の新たな証言から女性弁護士の存在が浮上。転落死した女性を救おうとしていたらしいが……
脚本はシリーズ初参加の杉山嘉一。『仮面ライダーJ』の子役ヒロインだった野村佑香が若くしてヒロイックな女性弁護士を演じる。
依頼人に襲われた過去からDV専門になった女性弁護士という設定や、インターネットを小道具としていることから、太田愛脚本の傑作前後編を思い出す*1。
そのため見ていて既視感はあったが、その先入観をもっていると意外性をおぼえる局面もあったりして、同じ道具立ての別解というコンセプトを感じて楽しめた。
まず、なれなれしい主婦がいかにも怪しげで、しかしなかなか意図が読めないことがミステリとして興味を引く。別居している夫が姿を見せないことや、特命係がおとずれるたびに掃除が進んでいる描写に、不思議な不穏感が増していく。主婦もまたDV被害者なのかと予想したり、あるいは夫を殺して証拠を隠滅しているのだろうかと深読みしたりした。
あまりにDV被害者に親身な善良ぶりや、偶然にしては被害者への接近が早すぎることから、女性弁護士にも不穏感がただよう。依頼人を返り討ちにした過去も、正当防衛ではなく計画的な暴行の可能性を感じさせる。
SNSの公開情報をつかった身元特定を青木が実演する場面もリアルでいい。素人でも可能と説明することで、視聴者への注意喚起になりつつ、真相の地味な伏線になっている。
物語の全体で、あくまでSNSを道具と位置づけたのが良かった。
他人を傷つけなければ匿名で愚痴を吐き出す自由があるし、そうした被害者をさがして救いの手をのばすこともできる。そこで素人主婦の名探偵ごっこがプロの女性弁護士とつながった。
異常なまでに他人を救おうとした女性弁護士のありようは、かつて自身も救われた経験と、そこから始まるシスターフッドに支えられたものだった。少しずつ身辺整理を進める主婦描写が、その覚悟を映像として感じさせる。
もちろんSNSは犯罪行為に悪用することもできる。匿名的なつながりで関係性が隠されて、対立していると思われた雑貨商女性と知人男性が共犯という逆転にそこそこ意外性があった。犯罪を女性が主導した構図も、たとえ悪い方向であっても女性は主体性ある存在なのだと感じさせて、逆に良かった。
事件性がないと判断された女性弁護士の転落死で、現場に証拠が残されていたというのは安易だが、目撃証言のある転落死より前なので現実の警察の無能さを思えば理解できる。本筋の推理には関係なかったので、湿布薬の日付の後付け回想も今回は許せる……許せるが、冠城あたりが最近の怪我というのは偶然とは思えないと指摘して、杉下が1年前の湿布薬だと説明して謎が深まれば、もっと解決編の納得感があがっただろう。