「メモリーローン」は、のび太が野球で奇跡的にホームランを打つ。しかしそれはスネ夫のニューボールを無くすことと裏腹だった。スネ夫に弁償を求められ、のび太は金銭をえるため記憶を売る……
アニメオリジナル秘密道具*1をつかったオリジナルエピソード。福島直浩脚本に釘宮洋コンテで、奇妙な味のショートショートから感動的なドラマへ展開していく。
まるで白昼夢のような冒頭のホームランから、パースのついた作画で背景もふくめてよく動いていて目を引く。これ自体が秘密道具の効果かと思えば、同時に不幸が襲ってくることで納得。
しかし、そのような奇跡的なホームランの記憶を売った対価が、たった1000円というのが解せない。出木杉がテスト百点の記憶個々は1円なのに対して、失敗した八十五点*2は反省のため3500円という相場から、記憶の良し悪しより忘れたくなさで値段が決まることはうかがえる。だからこそ、劇中で語られているように過去も未来も期待できるしずちゃんとの記憶ひとつより、のび太が二度と経験できないようなホームランの対価が高くなるのではないか?と疑問を感じた。
しずちゃんは大切な友人であり、いっしょにアルバムを見ることで忘れた重みを痛感する展開もあるが、ホームランもまたジャイアンのような悪友との大切な記憶ではあるはずだ。後述のように、痛感したことを回収しない問題もある。
ゲームほしさにドラえもんや友人や両親や祖母の高額な記憶を売りわたそうとして、ふみとどまるところはベタだが感動的。そこでゲームを買うには足りない金を、ゲームがほしいという思い出を消すためにつかうオチも悪くはない。しかしそのために、しずちゃんとの大切な記憶のひとつを売ったまま結末をむかえているのは、ちょっと物語としておさまりが悪い。勉強でもあやとりでもいいが、のび太自身が努力して入手した記憶を売って、また自力で獲得しなおすことを決意して終わる……といったオチのほうが良かったのではないか。
「おれさまをグレードアップ」は、高橋敦史コンテ回の再放送。さすがに出来が良いが、そろそろ新作がほしいところ。
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このところの再放送ラッシュを見て、新型コロナで仕事を失っているアニメ業界へ還元されているのか不安もおぼえる。
2005年以前ほどでないが再放送が多いこの作品は、末端のスタッフまで少額でも印税を出したり、再使用を前提として高額の対価をはらっても良いのでは、などと今さらながら思った。実際のところどうなのだろう。