新型コロナウイルス感染防止のため上映会が中止され、監督やプロデューサーなど少人数をスタジオにまねいて解説しながら作品を配信する方式に変更。
【あにめたまご2020 3作品配信開始!】
— あにめたまご公式 (@anime_tamago) 2020年3月27日
本日19時から公式HP内特設ページにて、
若手アニメーターの育成状況や制作の舞台裏を紹介したスタジオトークと人材育成の成果物である3作品をご覧いただる「完成披露特別配信」を開始いたしました!
ご視聴はこちらからhttps://t.co/FqPiAQ156k#あにめたまご
3月27日から配信していたが、感想を書くのが終了日の4月30日になってしまった。
『オメテオトル≠HERO』はスピードが制作*1。あらゆる生物が機械化され種族化した未来に、ヒーローという種族に生まれた少年が、滅びたはずの植物にかかわる種族と出会う。
紙芝居に毛がはえたように動かないアメコミ調の2Dアニメと、質感のないロークオリティな3DCGアニメの組みあわせで、ひとりの少年がヒーローとヴィランふたつの流れの上にたちあがる。
文明に対する自然の復讐という古典的なテーマを、ヒーローのアイデンティティクライシスと、ボーイミーツガールに重ねあわせる。ヒロインにあたるリリーの闇堕ちキャラクターとしての完璧さと、それが行きつくところまでを描ききった顛末は、印象深いものではあった。その戦いで多くのものを失いつつ、再起した少年のドラマも嫌いではない。
しかし明らかに尺が足りていなくて、台詞で語られていただけのヒロインが出てすぐヴィランの本性をあらわしてもギャップがきわだたない。少年が育ちヒロインと出会った前日譚をEDで見せているが、スタッフクレジットを最後に流すよう決められているのでもなければ、せめてそれをOPに配置すれば印象が変わっただろう。そうでなくても、序盤に設定説明がつづくのが視聴意欲を減退させる。もう少し尺があれば、少年とヒロインの学校生活を序盤に描いて、その授業風景をとおして設定を説明したりもできたのではないか。
また、映像作品としては若手スタッフの習作にすぎない印象で、統一感はあるが特段の良さはない。手描きもCGも技術的に目新しさがなく、あまり制作リソースを使っている感じでもない。自然と文明の違いをテクスチャや技法で区別するような演出もできていない。キャラクターやプロダクションのデザインは好みなのだが……
『レベッカ』はベガエンタテイメント制作。19世紀末の米国で、叔母ふたりだけが住む田舎にひきとられた少女が、オテンバに生活するなかで家族として自他を認めていく。
日本アニメーション出身の会社代表が20年あたためていた企画だという。アニメイトタイムズのスタッフインタビューによると*2、オリジナル作品をつくれる機会として注目していたそうで、育成という目的と事業の実態がずれつつあるという業界内の批判を思い出した*3。
しかし作品の完成度は今期で一番。純粋に短編アニメとして面白いし、育成のためになりそうな作りにもなっている。今どき珍しい瞳の小さなキャラクターデザインで、老若男女の細やかな生活描写と喜怒哀楽の芝居をていねいに作画。同世代の少女でも性格にあわせて動作を変える。細かいレースのついた服装でも手を抜かず、きちんと着ている人物の骨格を感じさせるように動かす。コンテは人物の全身を映しているため、アニメーションは手抜きできないし、背景美術も精緻に描かなければならない。
物語も良かった。いかにも名作劇場の延長らしく、叔母の躾けで生活力をもったことを少女が認めることがクライマックス。しかし同時に叔母側も少女と同じ欠点が自身にあることを気づかされ、双方向に認めあうドラマにまとめ、ちゃんと現代的に納得できるよう落としこんでいた。
『みちるレスキュー!』はゆめ太カンパニー制作。宇宙をとんでいた色々な色の球が、寝ている少女の部屋へおりてきた。次の日にフリーマーケットへ行った少女は、球体の起こす異変に巻きこまれる。
いかにも文化庁が出資しそうな教育的なアニメ。少女が売ろうとする中古品のモチーフで『オズの魔法使い』を思わせたり。文明と自然の対立というテーマが『オメテオトル≠HERO』と共通していたり。
アニメーションとしての方向性は、通常より芝居などの手間はかかっているものの*4、普通のアニメの延長上。中古品が戦うためメタモルフォーゼする作画も、いかにも日本のアニメ的な様式美。
コンテが悪いのか、全体的にレイアウトが正確な空間を描けていない感じもあった。そういう様式美も日本アニメにはあるが、育成事業の今回はもう少し正確性や困難性に挑戦するべきだったのではないか。
カットごとの出来のばらつきもはげしくて、あまり作画修正ができていない感じもあった。若手アニメーターの習作らしさがあるが、育成のためならばちゃんと意味を教えながら細部まで修正していくべきではないか?という気もした。
物語は起承転結を素直にまとめていて、短編アニメとして見られる内容にはなっていたが、あまり新鮮味はないし発展性も感じさせない。良くも悪くも全体的に習作にとどまる作品といったところ。ただ、作品紹介で言及されたように「鳥」の描写はTVアニメでは困難な物量でおこなわれ、ちゃんと恐怖感があったし、こういう事業アニメでは欠けがちな刺激があって良かった。
作品ごとの解説については、若手アニメーター育成事業の性質から考えて、登板できないかわりに若手のコメントを紹介したりしてほしかったところ。
もちろん興味深い話もいくつかあった。特にMCをつとめた岩田光央と平野文が、アニメ制作体制で異常が通例となっている問題として、完成映像のアフレコができない若手がいるという声優の立場を語っていたのが興味深かった。
実際アニメーターから出ている逸話でも、アフレコ作業が遅れている昨今において、意図せず似たような状況が生まれかねないという。
ああ、そうなんですね…。新人声優さんが入る場合に、最初から配慮で入れてた話は聞いたことがありますが、頼まれるようになったら…どうしようもないですね。デジタルだからそれほど映像のやり直しは、苦ではないとは思いますが…。
— ほりですく (@Horidesk) 2020年4月22日
*1:これまで聞いたことがなかったが、公式サイトによると産官学連携の小規模会社らしい。ショートアニメの元請けや、実写映画のVFXに参加しているようだ。speedinc-jp.com
*2:こちらのインタビューには寺本幸代監督も登場しているが、残念ながら配信には出席しなかった。animeanime.jp
*3:しかし本来の目的外ではあっても、複数のTVシリーズなど新作につなげられているだけ意義はあるとも感じてしまう。多くのクールジャパン事業が利権の温床となるだけで成果物を何も出せていないことと比較しての話だが。
*4:逃げる群集が静止画やリピートでないことには感心した。