法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『オイコノミア』マンガとアニメ 熱〜い現場の経済学

身近なことから経済学にふれようとするEテレの教養バラエティ。今回はアニメの経済効果と、その仕事としての厳しさがテーマ。
http://www4.nhk.or.jp/oikonomia/x/2017-05-17/31/8599/1303257/

今、漫画・アニメ業界に新たなブーム到来!そして制作現場にも変革の波が押し寄せている。又吉が見た、衝撃のアニメーター生活とは?さらにアニメの効果を経済学で深掘り!

興味のあった新しい動きを映像で見られたことは良かったし、できるだけ現在の問題と未来の希望を幅広く見つめようとする姿勢も悪くはないが、それゆえ現状を改善する難しさを痛感する番組だった。


まず映画『この世界の片隅に』のヒットからクラウドファンディングに注目。資金を集めて融資するシステムは銀行の仕事だったという解説者の指摘に、いわれてみればという納得感がある。
他にクラウドファンディングが活用されている事例として、若手の手描きアニメーターに格安の寮を提供するNPO活動を紹介。
NPO法人アニメーター支援機構
せまい台所を布でしきっただけの、まさに「立って半畳寝て一畳」な環境だが、職場と寝床を往復するだけの若手アニメーターにはありがたいという。
ちなみにNPO側もレポート漫画をツイッターに上げていた。

登場する若手アニメーターも、プリキュアっぽい少女が「オイコノミアビーム!」をはなつ作画を番組に提供したり。ラフだが良い作画。


さらにクラウドファンディングで絵本をつくったタレントとして、キングコング西野亮廣が登場。分業で絵本をつくった手法から、後述の3DCG制作会社ポリゴン・ピクチュアズ*1の話題にもつながり、なかなか良い人選ではあったと思う。
絵本を無料で全て公開した宣伝手法の話題で自虐的な笑いをとりつつ、最後まで内容を確認していないと親が子に安心して与えられない絵本独特の市場固定化への抵抗だった、という自己解説も興味深い。扇動的な表現で対立をつくりだした問題などをさておけば、ひとつの手段としては理解できるものだった。


そしてポリゴン・ピクチュアズだが、分業制を推し進めて各部署の専門性を高めて、育児休暇などを確保したと語る。現代のアニメ業界では確かに素晴らしい話である。そこで社長が製造業出身だったことから、分業した現場の効率化が「カイゼン」として肯定的に語られる。
しかし、各部署が細かく分業されているのは、むしろ現在の手描きアニメでこそ一般的な業態のはずだ。繊細かつ高密度な映像を維持するために、同じ絵が複数回にわたって修正され、撮影時にさまざまな効果が付与されるという、非効率的で過剰な工程がTVアニメでも一般化していることが問題のひとつといっていい。
一方、3DCGは手描きアニメに比べて人間がたずさわる工程が少ない。それが少人数制作だからこそクリエイターがすみずみまで作りこめた『けものフレンズ』に結実したり、あるいは多人数で無理なく安定して素晴らしい映像を提供した『シドニアの騎士』に結実した、という順序ではないだろうか。
分業制の欠点も語られたものの、それがクリエイターとして充実感がないということだけだったことも疑問。たとえば、手描きアニメの彩色手法が変わっていった時のように*2、専門職として特化しすぎて技術革新に対応できないという問題などがすぐ思いつく。部署間の連携が弱くなることは、労働運動が難しい要因のひとつともなるだろう。


アニメーターへ補助金を出す根拠として、観光や産業*3を活性化させる「外部性」を持ちだしたりもしていたが、それは確率の低い一過性の流行にすぎまい。
人間を部品のようにあつかう効率化を活用するとしても、やはり人間はどこまでも人間という認識を忘れてはなるまい。

*1:社名は番組内で紹介されなかったが、映画『BLAME!』の3DCGの制作風景が映されていた。

*2:まず、透明なセルロイド板に描かれた線を基準に絵の具を塗りわけていく時代があったが、その基準線を紙の絵から写すハンドトレスという仕事が、線を直接コピーする機械の登場で消滅。さらにコンピュータ上のデジタルで彩色する手法へ切りかわり、セルロイド板や絵の具の製造業が消滅した。

*3:君の名は。』による組紐人気などが紹介。