法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「あにめたまご2017」全4作品の上映会の感想

バンダイチャンネルで24時間限定で配信していたので*1、スタッフコメントを聞いてから、各作品ごとに視聴した。

今回は全体として明るい娯楽作品がそろっている。短編としての完結性が足りない感はあったが、どれも映像のクオリティは高く、安心して見ることはできた。
あにめたまご2019
若手アニメーターのコメントも、上映会が進むごとに段取りが良くなっていく。アニメとは関係ないが、STUDIO4℃のひとつとばしは笑えた。


『ちゃらんぽ島(ランド)の冒険』スタジオコメットが制作。住民の生活を維持していた卵をバオバブの巨木が生みださなくなり、かわりに生まれた金の卵をめぐって子供と大人が争奪戦をくりひろげる。
昨年の『UTOPA』を思わせる擬人化動物の冒険劇。キャラクターの体型は二頭身だが、動きはこぎみよい。シンプルなデザイン*2だからこそ、元気よく動きまわるアニメーションの魅力を感じやすい。レトロフューチャーなメカで暴れまわるアカン博士のアクション作画も目を引いた。明るく豊かな色彩感覚や、こまごまとした背景美術設定も楽しい。
物語も、大人と対立した子供たちだけの冒険劇として、自然と文明をめぐる風刺劇として、短編ながらよくまとまっていた。島の各所を行き来したり、バオバブの巨木を上り下りしたりして、舞台にバラエティがあってテンポ良く飽きさせない。バオバブの樹の精に説明させるかたちで問題が収束したのは、物語としては安易ではあるものの、短編だから許せる範囲か。
ひとつ作品外で残念だったのは、上映前のスタッフコメント。なぜかスタジオコメットの社長が登壇して長々と語り、若手アニメーターの出番を食ってしまっていた。


RedAsh -GEARWORLD-STUDIO4℃が制作。遺伝子にナノマシンを組みこんだ「ナノレース」は、特殊能力を獲得しつつ、死の恐怖と階級差別に苦しんでいた。彼らは大金をかせいで手術を受け、「ピュアレース」になる未来を目指す。
3DCGでつくられたSF作品。艶消ししたようなテクスチャで、まるでイラストか切り絵のような質感が面白い。比較的に高い頭身なのに、芝居や立体が破綻したカットが見られないことも感心した。シネマスコープサイズの上下黒帯に用語説明のテロップを入れて、明朗快活なドラマと衒学的なSFらしさを両立させるという、あたかも士郎正宗漫画のような趣向も楽しかった。同時にSFガジェットはテロップがなくても映像を見ていれば理解できるように作られていて、趣向によりかかっていない。
キャラクタードラマも悪くない。まず男性コンビのバランスがいい。年少で小柄なベックは強力な能力を持っていて冷静で、大柄なタイガーが後ろ向きで感情的だが経験値は高い。いわば『TIGER & BUNNY』の主人公コンビと似た関係だが、関係が成熟して乾いているので見やすく、短い尺を無駄に食わない。女性キャラクターも自立性が高くて、やたら媚びるような嫌味がない。
ただ、主人公が能力で灰になった時、あまり灰に見えないのはマイナス。ひとかたまりの流体として描画するだけでなく、せめて灰らしくザラザラしたテクスチャを用いたり、細かい粒子を飛ばすべきだろう。
もうひとつ残念なのはプロローグだけで終わったこと。それでも敵の追跡をからくもかわした時点でEDに入っていれば起承転結がまとまった印象になったろうに、次の舞台へ移動して驚きの事実が明かされた瞬間に「To be continued」というのは厳しすぎる。連続活劇としては成立していて、視聴している時間は最も楽しい作品だったのだが。


げんばのじょう-玄蕃之丞-日本アニメーション制作。長野県塩尻市の伝承に題をとり、文明開化についていけない化け狐一座と、その正体を目撃したことで不思議な冒険をした少女の一夜を描く。
いかにも国税を投入した作品らしく郷土や日本の文化のプロモーションとして成立していて、同時にマイノリティの立場を妖怪や老人に仮託した寓話として見ることもできる。
俯瞰や広角といった難しいレイアウトで、マントを着て舞う玄蕃之丞の作画が見どころ。上映前のスタッフコメントによると、監督が主人公の舞を演じて、それをロトスコープしたという。ただ単純に実写をなぞったというには線がきれいに整理され、前後のカットとの違和感もないので、実際はビデオ参考くらいの位置づけかもしれない。化け狐らしいメタモルフォーゼもアニメ育成事業らしい見せ場として散りばめられていた。
目新しさはどこにもないが、映像も物語もよくまとまっていて、ひとつの短編として楽しむには悪くなかった。惜しむらくは、もっと毒気があれば娯楽としてメリハリがついたかな。


ずんだホライずんはSSS合同会社とスタジオ・ライブとワオ・コーポレーションの3社共同制作。東北振興目的の美少女イメージキャラクターによる、キャラクターモチーフとなった豆をめぐる戦いが描かれる。
不自然なミュージカル*3から特産物のゴリ押し、無理やりなバトルをどこまでもシリアスに展開、さらに短編だというのに新たな敵も登場して大騒動、急転直下の御都合主義オチ。完全に『ヘボット!』と同ジャンルのシュールギャグ作品で、しかも体裁として真面目さを貫いているので劇中にツッコミが不在。視聴しながら笑いっぱなしだった。

キャラクター公式アカウントを確認しても、狙いを外して滑ったのではなく、シリアスな笑いを計算していることがうかがえる……地方振興キャラクターの公金支出アニメでシリアスな笑いを計算しようとした判断そのものが常軌を逸しているが。
前後することになったが、美少女キャラクターばかりの画面をすみずみまで整え、日常も戦闘も細やかに動かし、一般的な美少女アニメ作品の水準は軽く超えている。かなり複雑な服飾デザインを最後まで崩さずに動かしていて、ベテランのアニメーターの修正や助力があるとしても、かなりの手間と技術が使われていることはたしかだろう。一見の価値はある怪作。

*1:昨年のように1週間くらい余裕をもってほしかったが。「あにめたまご2016」の全4作品が6月11日まで無料配信中 - 法華狼の日記

*2:ただキャラクターデザインをかねた若手アニメータースタッフがコメントしたように、瞳をイラストのようにギザギザ線で処理していたのは、動画で自然に動かすのは大変だろうなとは感じた。

*3:一応、メインキャラクターの東北ずん子がボーカロイドという関連はあるが。