法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

リアルを知らないことがフィクションの足を引っぱることもある

たとえ話として、ヒーローがバイクに乗る場面で、ヘルメットをかぶっていなかったとする。

仮面ライダー THE FIRST

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  • メディア: Prime Video

その描写が危険運転だと批判された時、さまざまな反論が考えられる。
たとえばヒーローは普通の人間ではない設定であれば、その説明描写になるかもしれない。ちゃんと一般人はヘルメットをかぶっている描写があれば、対比演出として成立するだろう。
あるいはヒーローがヘルメットをかぶっていないのは、その余裕がない状態で人命を守ることを優先した、緊急避難であるかもしれない。うまく演出すればヒーローの決断を表現できる。
それともヒーローの素顔を隠さないことを優先したのかもしれない。そうであればヘルメットをかぶらないのは表紙などのイメージ描写だけで、本編ではきちんとヘルメットをしていたりする。


もちろん作者は反論せず、ヘルメットをかぶった描写に修正する選択肢もある*1

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そこで修正した理由として、道交法違反だとは知らなかったという釈明が出されれば、なぜ関係者の誰も気づかなかったのかと首をかしげられるだろう。
とはいえ、中心的な作者が免許を持たず、道交法改正前のヒーロー作品の印象が強ければ、ありえないことではない。他のスタッフも、まさか作者が道交法を知らないとは思わず、意図的な描写と考えて見逃すだろう。
ここで最初から作者に知識があるか、関係者が念のために指摘しておけば、批判されないような説明を追加できたかもしれないし、発表前に描写を修正したかもしれない。


いずれにせよ、影響力の大きい人気作品であればこそ、危険行為を肯定しないよう配慮することも、表現者の責任のとりかたのひとつだ。
ビデオなどで発表されるマニア向けならともかく、TVで放映する子供向けの『仮面ライダー』シリーズが、変身前は必ずヘルメットをするようになって長い*2


一方で、消費者が最初に見た描写へ愛着をもってしまい、多少の修正ですら拒絶してしまう感情も、それはそれで理解できなくもない。
作者にとって消したい失敗であっても、修正してほしくないという消費者の感想は出てくるものだ。時には歴史的な資料として価値が生まれ、上映版と修正版の両方が残されることもある。

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もちろんフィクションで危険行為を肯定することは、リアルで推奨することとは異なる。リアルでは問題と消費者がきちんと理解していれば、どれほど劇中で肯定されても、真似をすることはないだろう。

しかし修正を拒絶するあまり、フィクションの危険行為をリアルでも問題ないかのように消費者が主張すれば、新たな問題となってくる。


道交法を知らない作者の無教養を批判させたくないからと、道交法など誰も知らないとか、道交法は外国の法律だとか多くの消費者が主張したなら、むしろ問題は作者個人にとどまらない。
さらには、ヘルメットをかぶらなくても安全だとか、ヘルメットをかぶることこそ違法だとか、少なくない消費者や野次馬が主張しはじめたなら、もはやリアルの問題というしかない*3
ついでに、リアルとの違いを前提としたフィクションは、リアルの認識を誤った消費者には正確に読解してもらえない問題もある。作者と消費者の両方が無知だったとしても、修正が必要とすぐ判断できた作者と、そもそも問題ではないと思う消費者では、大きな開きがある。


そしてそうした反ヘルメットの主張がもりあがればもりあがるほど、責任感ある作者はヘルメットの必要性をつたえる表現へ修正せずにいられないかもしれない。
『僕のヒーローアカデミア』で「マルタ」というネーミングが意図せず批判され、さしかえることになったという - 法華狼の日記

たとえ作者が本当は道交法をよく知っていたとしても。本来ならフィクションではなく教育でつたえるべき知識であったとしても。

*1:念のため、アフィリエイトはイメージ画像として使用した。コレクターズエディションDVDは、プライムビデオと同じパッケージの通常版DVDと同年に発売されており、批判を受けて修正したわけではない。ただし作品自体には、『水からの伝言』を劇中の事実として描くという、リアルとフィクションの境界線において別の問題点があった。 『仮面ライダー THE FIRST』 - 法華狼の日記

*2:そのように修正された表現が定着すると、過去と同じような描写であっても、より危険な行為というニュアンスが生じるという変化もあるわけだが、話題がそれるので今回は省く。

*3:たとえ話でなく、731部隊の史実では、有名な与党政治家まで否認論を主張している。