法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season18』第15話 善悪の彼岸~深淵

「悪のカリスマ」たる南井を、杉下と冠城は追っていた。ロンドン時代に起きた連続殺人と、今回の連続殺人が似ていると推理するが……


犯罪者を操る怪人物として暗躍していた南井の末路を、南井シリーズを手がけてきた徳永富彦の脚本で描く。前回は早々とした退場を残念に思ったが……
『相棒 Season18』第14話 善悪の彼岸~ピエタ - 法華狼の日記

冒頭で杉下が過去回から推察できる情報をならべたてて、それだけでほとんど南井というキャラクターの全体像も解明してしまった。そもそも、多くのレギュラーが退場するなかで、せっかく育ててきた好敵手なのだから、もう少し退場は引きのばしても良かった気がする。

今回に明らかになった真相からすると、あまり南井の活躍を長々と描けないことは明らかで、見終わった今は納得感しかない。南井が名警官だったロンドン時代を前日譚として描こうにも、スペシャルな海外ロケをする必要がある。
何より、キャラクターの闇深さが完全に消え去ったと思っていたところに、「悪のカリスマ」の印象を根底からくつがえす展開に驚かされた。今回のようなサプライズがあるから、ミステリ目当てにこのドラマを見ることがやめられない。


今回を一言でいうと、連続ストーリーにきちんと伏線をはって、ドラマとしてもミステリとしても完成度を高めた「ダークナイト」だ。
『相棒season13』第19話 ダークナイト - 法華狼の日記

致命的なのが、有名な劇場型犯罪者のはずなのに、その存在が今回はじめて語られること。

思えば、記憶の断片化という設定は、よく似た解離性同一性障害ならば、プロファイリング設定を使ったサスペンスでは珍しくない。プロファイラーが犯罪者と同化していく構造も、杉下の推理を聞くまでもなく視聴者は見当をつけられるだろう。
しかしそこで人間誰もが直面する問題をつかうことで、偉大な人物の末路を痛々しく描けた。敵も味方もカリスマの虚像しか見えておらず、それゆえ助けが遅れた悲劇でもある。
もちろん演じる伊武雅刀の力もあった。過去回をふりかえっても、たしかに真相に当てはまる言動がありつつ*1、一見するとカリスマらしさはあるという絶妙な演技をしていた。
南井を受け止める杉下もまた老いを感じさせる水谷豊が演じており、まるで鏡写しのようにも見えた。作品名の「相棒」の行く末を暗示している印象すらある。

*1:たとえば初登場時に花の里の支払いを忘れたギャグも、今回の伏線だったのではないかという指摘がある。南井が杉下になれなれしく話かける姿も、余裕ある犯罪者だからではなく本心からの敬愛だと思えば、伏線であるだけでなく悲喜劇のドラマだ。