脅迫状が送られた小説家の美作章介に招待され、特命係は聖島という孤島へ向かう。そこには豪奢なホテルが建てられ、美作章介を中心とした愛読者のパーティーが開かれていた。
杉下も美作の推理小説シリーズを愛好していたが、そのシリーズに登場する名探偵はダークナイト事件を調べていて存在を知った杉下から着想したという。そのため美作は甲斐峯秋に嫌悪されていた。
そして嵐で孤立した聖島で、美作のマネージャーが密室で死体となって発見される。その密室は美作のシリーズ1作目に似ているが同じトリックは使えない。聖島にはじまるシリーズは再び聖島を舞台とする次作で完結する予定だというが、美作はそのトリックもつかえないという。
しかし美作がかたくなにトリックを説明しないことに不審がっていると、ネタ切れになった美作は弟子にトリックを考案させているという情報が出てくる……
恒例の元日スペシャル。神森万里江脚本に内片輝監督という珍しい組みあわせで、古典的なミステリ趣味にあふれた長編ストーリーが展開された。神田脚本のスペシャルはseason22の初回も良かったし*1、昨年の元日スペシャルも悪くなかったので*2、今後も期待したい。
このドラマはミステリらしい趣向にあふれた回も多いが、狭義のクローズドサークルや見立て殺人や密室トリックが登場するのは相当にひさしぶりだ。しかもシチュエーションの異なる連続殺人が定期的に発生し、同じホテル内でも状況が変化しつづけて飽きさせない。
くわえて事件ひとつひとつに簡単ながら異なるトリックが使用されているし、美作という小説家の人物像そのものが輪郭がなかなか明確にならず、パズルとしてもドラマとしても謎解きで興味をひきつづける。
残念ながら最初の密室トリックは真相に見当がつけやすいし*3、大勢が食事をするなかで甲斐峯秋だけが毒で苦しんだトリックは真犯人の技術だよりではある。
しかしシンプルなトリックでも密室が描写されたこと自体がけっこう嬉しいし、そのトリックだからこそ連続殺人がはじまったという構図の逆転は面白い*4。また毒のトリックも映像を伏線とした面白味はあるし、何より杉下が物証をつきつける過程の切れ味がすさまじく、名探偵と真犯人の対決として見ごたえがあった。ついでに中盤で迷惑系ユーチューバーが殺された時のトリックはすぐに解明されるが、けっこう単体で悪くない。
杉下も愛好するような凄腕の推理作家かと思われた美作が、実はトリックはゴーストライターだよりと語られて、キャラクターとして魅力を失うわけだが、それ自体がトリックだったという二転三転する展開も楽しい。人気ミステリ小説シリーズそのものが遠大な計画だったという無茶も、逆にミステリらしい楽しさがある。
最終的に明らかになる動機は、名探偵の存在そのものが謎めいた事件を生みだしたパターンだが、杉下という過剰に真実をあばくキャラクターの延長で違和感がない。特に、杉下よりも人格が未成熟な甲斐亨が相棒だった時期に原因があると描かれたので、説得力が半端ない。
まさか唐突きわまりなかった甲斐亨の末路*5が今回のような佳作エピソードの背景として昇華されるとは思わなかった。回想の映像でもはっきり描写され、そろそろ出所の時期だという会話もあり、俳優も芸能界に復帰したらしいので、シリーズに再登場する可能性もあるかもしれない。
*1:最近の初回スペシャルではベストと感じるほどだった。 『相棒 season22』第2話 無敵の人~特命係VS公安…巨悪への反撃 - 法華狼の日記
*2:『相棒 season23』第9話 最後の一日 - 法華狼の日記
*3:マネージャーが病気で余命いくばくもないという情報をすぐに出すべきではなかった。できるだけ遅く、たとえば終盤にようやくヘリコプターが聖島にたどりついて、運ばれた遺体が解剖された結果として重病であることが判明する、くらいの時系列にすれば、もっと視聴者をまどわせられたと思う。
*4:この発端ならば、けっこう無理があるトリックや、動機が薄弱な殺人がおこなわれても、物語における人間心理として許容できる。