法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『センコロール』

一見すると平凡な日本の社会で、さまざまな機械や建物に擬態する巨大生物センコを少年が使役して戦い、ひょんなことから少女が巻きこまれる。


東京都のアニメクリエイター支援企画「動画革命東京」に援助され、2009年に作られたオリジナル短編アニメ。

センコロール (完全生産限定版) [DVD]

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支援企画はすでに消滅したが、続編『センコロール2』制作の動きはつづいていて、ちょうど十年目の今月末に1作目と2作目をあわせた『センコロール コネクト』が上映予定。
CENCOROLL CONNECT -センコロール コネクト- 6.29 ROADSHOW


漫画家の宇木敦哉が監督脚本作画まで担当。いかにも『アフタヌーン』の四季賞に輝いた作家らしい、説明を排して異形の日常を切りとったような作りの物語。作画も30分をとおしてていねいで、各部署には他のスタッフも入っているとはいえ、すみずみまで個人のフィルムとして成立させている。
アニメーションとして意外と楽しめる部分が多い。センコのメタモルフォーゼは作画の見せ場として散りばめられているし、そうして擬態した機械の意外なところからセンコが口を開けたり*1する異化効果も楽しめる。
あたかも夏のようにコントラストのくっきりした背景美術や、リアルな風景にまぎれこむデザイン化された怪物たちの戦いなどから、細田守監督版の『デジモンアドベンチャー』を連想したりも。後にシリーズ後日談の『デジモンアドベンチャー tri.』で宇木敦哉がキャラクターデザインに抜擢されたのもむべなるかな。


ただいかんせん、物語が完全に投げっぱなしで終わっているのはやはり問題というか、公的補助を受けているのに良くも悪くも自主制作アニメらしい。
少女がセンコの使役者となって危機を脱する展開から終わるのだが、そこから物語を閉じるための手続きをふまずにエンドロールが始まってしまう。もともとセンコを使役していた少年がダウナーで、あまり自身のことを語らないため、物語のテンションが平板なことも、ドラマとしての薄さを感じさせてしまう。
これではDVDのブックレットで声優が続編を求めるコメントを出しているのも当然だろう。それがようやくかなった今となっては、また違った気分で鑑賞もできるのだが……

*1:アフタヌーン』に連載されていた『寄生獣』を連想させる描写。