法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』トランポリンゲン/シャボン玉宅配便

「トランポリンゲン」は、ふきつけた対象がトランポリンのような弾力を持つ秘密道具が登場。のび太はそれでジャイアンの暴力をかわし、東京タワーまで遊びに行くが……
原作者の没後にカラー作品集に収録された短編を、2005年のリニューアルから初めてアニメ化。人体にふきつけて衝撃に耐えて高く飛びあがるアイデアまでは原作通り。
遊ぶのが数階建てのビル止まりだった原作から逸脱するのは、東京タワーを目指すあたりから。子どもの視聴者はちょうど十年前ごろから建造されたスカイツリーになじんでいそうなものだが、まだサブカルチャーのアイコンとしては東京タワーが強いのか。
身近な存在が異常な動きを生みだして、画面を縦横無尽に飛び回る秘密道具の設定は、いかにもアニメーションに向いている。しかし残念ながらトランポリン化した部分がまったく伸縮せず、赤紫色の土煙がたつという記号で処理されただけ。放物線の動きも等速運動のようで現実味がない。遠くまで移動する場面も背景動画などは使わず、カメラワークが説明的で単調*1。はずむのにあわせて、デジタル技術で背景美術を歪ませたりすれば、もっと面白い絵になったと思うのだが……


「シャボン玉宅配便」は、忘れた宿題をとどけるための秘密道具が登場。その秘密道具で作ったシャボン玉は風に流されても元の進路に戻り、送り先にとどくまで割れることはないが……
清水東脚本によるアニメオリジナルストーリー。コンテが腰繁男ということもあり、どことなく2017年リニューアル以前の雰囲気を感じた。
普通に考えればどこでもドアなど、もっと便利な秘密道具が無数にある。そのため秘密道具を出した発端に説得力を感じなかった。しずちゃんへ送る時、のび太が不安がって後をついていく本末転倒ぶりもふくめて、原作にもよくあるパターンではあるが……
しかし、ジャイアンの強奪から逃れるため、子供たちが独自の発送網を作りだす展開から面白くなってくる。子供だけの世界で郵便が再発明された情景は、意外なほど文明SFらしさがあった*2
もちろんジャイアンは運搬途中のシャボン玉を見つけ、発送網の妨害を始める。風に流される描写が先にあるので、虫取り網で捕まっても説明がつく。
最後にジャイアンの母が送られて事態を収拾するオチは予想できたが、発送網そのものに妨害をふせぐシステムを組みこんだと見れば、やはり文明SFのような味わいがある。

*1:絵コンテは木野雄。

*2:ただせっかくなら、シャボン液をわけあうことで子供たちひとりひとりが発送できる、という描写を明示しても良かったかもしれない。それならば今回の秘密道具でしかできない展開と明確になるし、シャボン液を使った商売などにも発展できる。