法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『魔法つかいプリキュア!』第50話 キュアップ・ラパパ!未来もいい日になあれ!!

再会した3人は、ことはの魔法で子供時代の姿に戻ってしまった。その姿のまま3人は魔法界へ行き、かつての敵や知人と出会う。
楽しく旧交をあたためていた3人だが、そこにドクロクシーそっくりの怪物ドクロムシーがあらわれた……


敵幹部や魔法界の後日談を見せつつも、あくまで気楽なイベント回。次作の主人公が登場する宣伝をかねているところは、『仮面ライダーゴースト』の特別編的な最終回を思い出す。
キャラクタードラマの結末としては、情感あふれる前回*1が好みではある。とはいえ、魔法学校に行くと人魚の子供たちが生徒になっていたり、さらに元敵幹部のバッティもいたり、きちんと物語の意外な連続性を描いてもいる。1年間ずっと作品を見てきた視聴者としての感慨はおぼえた。
プリキュアらしく敵と戦う展開にしても、復活したヤモーがドクロクシーへの忠誠をつらぬいたり*2、敵の行動が虫歯と関係していたり*3、特に印象深かったエピソードの再演だ。この最終回自体が、作品の魅力を凝縮した総まとめとして完成されている。
メインスタッフやスペシャルスタッフによる総力は前回に集中していたが、なかなか今回の映像も安定していたし、普通ならOVAやノベライズ*4で展開するようなおまけエピソードとして楽しむことはできた。


最終回なので、全体の感想も書いておく。
とにかく1クール目の立ち上げでつまづき、アクション作品としてのフォーマット構築の失敗が尾を引いたという印象が強い。第2部の敵が登場する2クール目終盤からは立て直そうとする意思を画面から感じたが、それが成功したのは4クール目に入ってから。
まず映像において、今作は終盤の4クール目が最も安定しており、作画の見どころも多かった。過去作では特例だったバンク作画の大規模な変更も3クール目以降に集中していた*5。たいてい1年物のTVアニメは放映前に完成する序盤1クール目が最も安定しているものなのに、序盤に目を引く作画はほとんどなかったし、第1部は敵幹部のデザインも感心しなかった*6。今作からの番組の見どころとして工夫をこらしたエンドカードは楽しかったが、これも初期はおこなわれておらず、よほど準備期間がなかったのか、早々にテコ入れするため本編以外をいじるしかなかったのか、などと想像したものだ。
次に、現世界と異世界を対等に描いて、主人公2人がつながっていくドラマとしては、序盤から一貫して悪くなかった。魔法界には異世界なりのルールがあり、異世界の視点を表現するため現世界を「ナシマホウ界」と呼ぶ設定も感心した。
そんな主人公のドラマにアクションを融合させるには、つながりを阻害する存在として敵を位置づけるのが定石だろう。しかし第1部の敵は主人公たちと戦う動機も、最終的な目的もはっきりしないまま、散発的に襲ってくるばかり。各話のメインプロットにおいて、戦闘がただのノイズでしかないことが多かった。第1部の敵が印象深くなったのは、動機の空虚性を露呈して首領が消滅した後、無為に幹部が襲ってくる展開になってからだ。


作品コンセプトの失敗を象徴するひとつに、敵が使役する怪物の総称“ヨクバール”がある。
異世界も現世界とは違う長所や短所がある社会として対等に描くため、魔法にさまざまな制約をもうける意図の一環として欲望を批判したいのだろうとは理解する。しかし境界線をふみこえて幸せをつかもうとする主人公たちとは対立しない。むしろ最終2話が示すように、主人公たちこそ今作で最も貪欲なキャラクターだった。
たとえば、怪物の名前を“キメツケール”にして、主人公や各話ゲストに現状を強要する敵として設定すれば、もっと物語における戦闘の必然性が増したのではないだろうか。劣等生に落ちれば成績が向上することはない、妹は優秀な姉に引け目を感じなければならない、氷雪世界の生物は太陽を求めてはいけない、とりえがなく目立たない生徒は生徒会長になれない、少女は異性に恋愛しなければならない……毎回そんな決めつけをする敵に主人公があらがう位置づけで戦闘を描けたはずだ。
第1部の敵の背景を考慮すれば、第2部の敵が混沌を求めることと対照的に、秩序の固定を求める存在であってもおかしくない。違う世界がつながることを秩序や混沌で否定する敵と、違うからこそ知りたい近づきたいと願う主人公という対立構図として成立するだろう。


実際、第2部の敵幹部のひとりは、優秀な魔法使いを誘導して友情を壊し、それが第1部の敵首領になったことが明らかになっていく。終盤には、第2部の敵が世界がふたつにわかれた歴史ともかかわっていることが語られる。
つまり背景設定においては、主人公ふたりのつながりを阻害する存在として敵を配置できていたのだ。しかし制作者だけが背景設定を理解していても、それを映像で示さなければ視聴者はわからない。意外性を演出するため隠しすぎては、後づけ設定と変わらない。
逆に後づけ設定だったなら、よく終盤までに整合性をたもちつつたてなおせたものだと感心する。終盤のドラマでは敵の存在意義が確固としてあり、主人公2人の物語を展開する基盤として重要な位置をしめていた。おかげで最終回をむかえた全体の印象は、シリーズでも上位に入るくらい良い。だからこその惜しさがある。

*1:『魔法つかいプリキュア!』第49話 さよなら…魔法つかい!奇跡の魔法よ、もう一度! - 法華狼の日記

*2:『魔法つかいプリキュア!』第24話 ワクワクリフォーム!はーちゃんのお部屋づくり! - 法華狼の日記

*3:『魔法つかいプリキュア!』第38話 甘い?甘くない?魔法のかぼちゃ祭り! - 法華狼の日記

*4:事実、この放映枠の少女向け作品の複数が、ノベライズとしてオリジナルストーリーの後日談が公式に描かれている。

*5:『魔法つかいプリキュア!』第29話 新たな魔法の物語!主役はモフデレラ!? - 法華狼の日記等。

*6:最初に蝙蝠モデルの幹部が登場したので魔女の使役する動物というコンセプトかと思いきや、水生動物モデルの敵幹部が蛙ではなく亀だったことに困惑するしかなかった。