法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『三度目の殺人』

殺人犯として刑に服していた三隅が、出所後につとめていた食品加工場の社長を殺したとして逮捕される。弁護人のひとりとなった重盛は、三隅の死刑を回避した裁判官の息子だった。
あやふやな発言をくりかえす三隅から、弁護人は強盗殺人ではなく殺人後に窃盗をしたという方針で争うことを決めるが、やがて社長の妻や娘を巻きこんで意外な情報が……


ドキュメンタリー出身の是枝裕和監督によるオリジナル法廷サスペンス。2017年に公開されたばかりだが、フジテレビが製作したのと、『万引き家族』の宣伝をかねてか、土曜プレミアムで本編ノーカット放映された。
映画『三度目の殺人』公式サイト - 9月9日(土) 全国ロードショー

三度目の殺人

三度目の殺人

いかにもドキュメンタリータッチで陰影が濃く、かつフィクションらしく執拗に十字が映しだされる。
気をてらった表現といえば接見室のガラスに反射して重盛と三隅の顔が二重写しになる演出くらい。
それでも雪におおわれた北海道の風景から古びた東京の街並みまで、きっちり映画らしい絵が作られている。


サスペンスの構造としては、韓国映画殺人の追憶*1を思い出した。
陰惨な事件から、少し気のきいた謎解きで真相があばかれるかと思いきや、それは美しい物語を求めたがゆえの錯覚にすぎず、結末で不条理の底に叩き落される。
もちろん何もかも同じというわけではなく、未解決事件というかたちながら綺麗にオチがついている『殺人の追憶』に対して、裁判から関係者の心情まで確定しながら曖昧模糊としたオチな『三度目の殺人』という結末が好対照で、それぞれ独自の良さがある。


実のところ謎解きサスペンスとしては、かつて書いた自作の短編ミステリと同じこともあって、わりと最初から可能性のひとつとして考えていたし、娘が三隅の住居に行っていた情報が出てきた時点で確信にいたった。
どちらかといえば、序盤に方針を決めさせたタクシー内での三隅の記録映像や、被害者妻と三隅のメールのバカバカしい真相など、地味で微妙な手がかりをたぐりよせていく細部にミステリらしい愉しみがあった。
また、公判前整理手続きで検察と弁護が争点をすりあわせて、真実の追求よりも争点をめぐる駆け引きが裁判所で重視されるあたりは、現代的な本格推理の問題意識に重なる*2。しかも、そうした現代的な本格推理でも真相の説得力はそれなりに用意されるが、現実の司法では一種の共同謀議によって当初の検察の見立てを堅持するだけと感じさせる顛末が、リアルな不条理さをきわだたせる。


あと、あまりに言を左右にして主人公をいらだたせる三隅の姿に、演じた役所広司が刑事役としてサイコキラーにいら立った『CURE』を逆転したような面白味を感じた。意図した配役ではないと思うが。

*1:『殺人の追憶』 - 法華狼の日記

*2:『虚構推理 鋼人七瀬』城平京著 - 法華狼の日記等のように、真実よりもそれらしい真相をでっちあげることが解決編で求められるという考えで書かれたミステリ群がある。