法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ワイドナショー』での三浦瑠麗氏が、スパイではなくテロリストの存在を断言したことが理解できない

日曜日にフジテレビ系列で放映された番組において、三浦氏*1が大阪でテロリストが動きはじめると主張していたという。
三浦瑠麗さん「大都市には北朝鮮のスリーパーセルが潜んでいて戦争になったら大阪がヤバいと言われている」(ワイドナショー 2018年2月11日) - Togetter

すでに多数の批判がよせられているとおり*2、マスメディアにおけるこのような主張は、差別主義の扇動から憎悪犯罪につながりかねない。
首都だけでなく大阪という地区を特筆していることも、「一般市民を装っている」と示唆していることも、現実のテロリズムへの対抗ではなく、民族的マイノリティへの偏見に加担しかねない*3


それにしても不可解なのは、なぜ「テロリスト」の脅威を断言できたのかということ。
たとえば外国の「スパイ」が入りこんでいるということを、世界の一般論として語っただけなら、これほど批判はされなかったかもしれない。
敵対的であれ友好的であれ、外国の情報を収集することは一般的にどこの国家もやっている。もちろん各国の大使館や、それに類する組織もかかわっている。ロシアや中国はもちろん、米国や韓国も日本で情報収集をしていないわけがない。
逆に日本の公的機関も、諸外国だけでなく、さまざまな犯罪組織にスパイを送りこんでいる。時には利己的に利用してきたことも公然の秘密だ。

こうしたスパイは、そのまま対立につながるとは限らない。むしろ交渉というものは、それなりにたがいが相手を知っている前提で進められるもの。先日に放映された『ドラえもん』のように、相手が無知すぎると困る局面すらあるだろう。
『ドラえもん』ロボ子が愛してる/大ピンチ!スネ夫の答案 - 法華狼の日記

必死に盗み見ようとする書類が、実は盗み見てもらおうとしている書類だという騙しあいが面白いし、誘導するために相手の頭の程度を理解しなければならないスネ夫の苦労も見ていて楽しい。

また、社会に埋没して公開情報を収集しているような「スパイ」であれば、外国に深い関係をもっているとは限らないし、善意の仲介者のつもりで情報を流しているだけかもしれない。そこからテロリズムをおこなうとなると、いくつかの段階が必要となる。
敵勢力の手先が敵勢力の属性をもつという先入観は、社会の不安と分断を煽りつつ、しばしば現実の脅威に対して後手にまわる結果をまねく。よく今件に関連して例示されている金正男暗殺事件も、実行犯のひとりは騙されたネットアイドルだったという報道が記憶に新しい*4


いずれにせよ、スパイの存在に主張をとどめたならば、たがいにおこなわれているという認識につないだりして、安易な敵対や偏見へむすびつけずに語ることもできたのではないか。
そしてそのような一般論であれば、ただ属性が異なるだけの隣人を危険視できるわけがない。さらにそこからテロリストの脅威を語るとなれば、いくつもの飛躍が必要となる。
わざわざ隣人が一斉蜂起する将来の可能性などより、政治学者が根拠も出さずに社会の分断を煽る現状こそ恐ろしい。

*1:はてなアカウントはid:LMIURA

*2:より正確な書き起こしもされている。三浦瑠麗の発言について : 私にも話させて

*3:核兵器をもつ北朝鮮にどう圧力をかけるか | プレジデントオンラインにおいても、「韓国と北朝鮮は同一民族です。日本にも、朝鮮半島との長く複雑な歴史がありますから、スリーパー・セルをリクルートし、隠しておくことは比較的容易です」とテロリストと民族的出自を直結させる発想を明言していた。

*4:逮捕の女「殺した相手、誰か知らなかった」|日テレNEWS24