法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season16』第17話 騙し討ち

IT企業の営業マンが自宅アパートで殺害され、ノートパソコンが盗まれる。首をつっこんだ特命係に、経済事件が専門の二課の梶が接触し、協力を持ちかける。
どうやらデジタル教科書をめぐる収賄事件が背景にあるらしい。さらに殺害現場の近くに、ピッキングを得意とする元窃盗犯の瀬川が住んでいて……


金井寛脚本で、特命係の杉下と、二課のエース梶の不思議な協力関係を描く。
新たな名探偵が登場するパターンのひとつなので、物語の枠組みに見当をつけることは難しくない。近年は二課の活躍が減っているという雑談も、わかりやすく伏線として機能する。自身も法をふみこえて正義を執行する杉下が、組織のために法をふみこえた正義を断罪するという、いつものように矛盾を感じさせる説教もあった。
ただ、事件における瀬川の位置づけは、けっこう意外なものだった。杉下が捜査を進めて、少しずつ瀬川の身辺を洗い出していくのを、なぜ梶が様子を聞いているだけなのか、まったく気づかなかった。瀬川が事件を通報したと判明するあたりも、一種の目くらましでありつつ、現状の伏線として成立している。


まったくの偶然だが、瀬川の正体はここ最近に話題となっているスパイだった。それも序盤で示唆された産業スパイではなく、梶が協力者として利用するという、警察組織側のスパイだった。
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日本の公的機関も、諸外国だけでなく、さまざまな犯罪組織にスパイを送りこんでいる。時には利己的に利用してきたことも公然の秘密だ。

梶は杉下の能力を利用するために事件へ巻きこんだのであり、ノートパソコンの奪取や盗聴をおこなっていた瀬川は使い捨てられた。
それでも杉下には断罪されつつも梶なりの正義があり、使い捨てられた瀬川も正義の手助けをできたという達成感をおぼえていた。
スパイというものは必ずしも私益のためでなく、しばしば良心や信念に誘導されて活動する。そうでなくては、周囲を騙して孤独な戦いをつづけることが難しい。そしてそれゆえに、交渉の不可能な敵とは限らない。