法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『激動の昭和史 沖縄決戦』

太平洋戦争において、米軍が上陸して戦場となった沖縄。その防備を固める初期から、日本軍が崩壊した末期までを俯瞰で描く。


1971年公開の、岡本喜八監督によるカラーシネマスコープ大作。沖縄決戦のさまざまなエピソードをつめこみ、約2時間半で描ききる。

とにかく展開のテンポが良くて、ドラマ描写をほとんど排除して、次々に新しいシークエンスへ移行していく。それだけでひとつの映画にできる対馬丸の撃沈エピソードも、米潜水艦のモンタージュだけで表現し、撃沈されたことを前提とした日本軍の会議から次のシークエンスが始まる。
物語としては米軍側の視点はほとんどなく、沖縄が受けていた差別も描かれない。あくまで沖縄県民と日本軍の関係性が戦争をへて変化していくドラマがメイン。逃亡してきた県民がスパイあつかいされて殺され、持ち物を検査すると御真影が出てきた場面などは印象的だが、沖縄ならではという葛藤は良くも悪くも出てこない。日本軍が組織として崩壊した後まで戦闘がつづいたことも見ていてわかりにくい。沖縄が主体となって制作したアニメ映画『かんからさんしん』*1などに比べると関係構図が単純で、いささか沖縄の受けた苦難を薄めている感もある。
とはいえ、最終的に沖縄を見捨てる日本軍のありようを批判していることも事実。国民を守るべきという考えから邪魔なものへと位置づけを変えていく軍隊の、普遍的な問題を描いている。1972年の沖縄返還直前に、日本軍の問題を描いたこと自体も、当時としては歴史的な価値があったかもしれない。


映像作品としては、今となっては中途半端に古びているところが多い。前述のようにテンポの良い展開で目をつぶることはできるのだが。
特に気になるのが、銃撃戦で血糊が出ず、おおげさに倒れる芝居が多用されること。もともと流血が目立たないモノクロ映画や、そもそも流血描写がほとんどない作品ならば気にならないが、銃剣などを使った格闘戦では逆に流血描写が多用されているため、アンバランスさが強調されている。
自衛隊に協力をあおいだ戦車描写も、かなり厳しいものがある。動きが遅くて激しい攻撃もせず、怖さがない。本物らしい戦車を表現しづらい問題は外国の大作映画でも近年まで見られたが、実物を使えたなら訓練の砲撃をモンタージュするくらいしてほしい。
一方で良いのは、数少ない特撮シーン。監督が特撮嫌いだったため、東宝大作映画なのに街への爆撃なども小さな実物大セットを爆発させるだけ。しかし、だからこそ監督でも採用したシーンは今でもリアリティがある。
沖縄県庁のミニチュア爆破は短いカットしか映らないことで粗が気にならないし、東宝が得意とした寒天の海もプールを使うよりスケール感が適切。日本軍機が出てくる場面も、逆光のシルエットで編隊が合成される描写くらいで、いかにもミニチュアという安っぽさがない。
他に印象的だったのが海岸の爆破シーンで、今では難しそうな環境破壊レベルの爆発を、映画撮影のためだけに実行している。水飛沫や爆炎があがるだけなので実際はさほど壊れてはいないのかもしれないが、映像のレンズやフィルムの色調が現代的なため、やってはいけないことをやっているという実感があった。

*1:こちらのエントリの5位として紹介。戦争映画ベストテン〜アニメ限定〜 - 法華狼の日記