法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スターリングラード大攻防戦』

列車を降りたソビエト連邦兵が列をなして、徒歩や騎馬で雪原を進んでいた。スターリングラードにせまりくるドイツ軍を押しとどめるため展開された一部隊だった。
だだっぴろい荒野に配置された兵士たちは、過酷な環境で塹壕に身をひそめながらドイツ戦車を待ちうける……


1972年のソ連映画。邦題は誇大広告といってよく、いくつかの情報で追加されている副題『白銀の戦場』*1が実態に即している。市街地すら画面にうつらない、ただドイツ軍を足止めする作戦を現場の視点で描いただけの小品だ。

スターリングラード大攻防戦 [DVD]

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とはいえ、いかにもロシアらしい大パノラマに展開される戦場はスペクタクル感ある。広々とした雪原に複数の再現戦車が進攻してくる映像はソ連ならではといえるだろう。1993年のドイツ映画『スターリングラード*2の後半を思いだしたが、ずっと敵戦車の数が多い。当時のドイツ軍を押しとどめた厳しい気候も、会話シーンで誰もが口から白い息を吐く様子で実感できる。
前半の延々とつづく行軍も、骨折して脱落する馬などの第二次世界大戦映画には珍しい描写が目を引く。後半の延々と終わらない対戦車戦も、まず村落が空爆され、砲弾を消耗していき、手榴弾で突撃をしいられたりと、状況に変化があって単調ではない。


また、最初から最後まで現場視点にとどまることで、悲惨な戦場におかれた一兵士の物語として普遍性がある。
冒頭と結末にソ連の苦難と勝利をうつした写真を連続で見せたり、なんとか大攻勢に耐えて物語が終わったりと、あくまで独ソ戦を顕彰する内容ではあるが、はっきりドイツ兵士を残虐や醜悪に見せる場面もない。映るのは航空機や戦車といった顔を見せない兵器ばかりで、唯一の例外が破壊された戦車から逃げだす火だるまの操縦士たち。
あくまでドラマになるのはソ連軍内のやりとり。より温暖な気候に住んでいたというアジア系らしい兵士や、戦闘にも参加する従軍看護婦など、当時のソ連らしい配役が自然に画面へバラエティをつくりだす。物語の構造として、良くも悪くも日本の第二次世界大戦再現ドラマに似ていた。


いずれにせよ、映像も物語も新味や迫真性はないし、流血や虐殺のような刺激も薄いが、期待しすぎなければ興味深く楽しめる作品ではあった。

*1:たぶん原題“ГОРЯЧИЙ СНЕГ”の直訳に近いのだろう。ロシア語はわからないが、WEB翻訳すると「熱い雪」とかいう意味らしい。白銀の戦場・スターリングラード大攻防戦 - 作品 - Yahoo!映画

*2:『スターリングラード』 - 法華狼の日記