法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

KADOKAWAとはてなが組んだ小説投稿サイト「カクヨム」に、先駆的なCGアニメ制作会社にまつわる興味深いノンフィクションがある

ノンフィクションはコンテストのジャンルにふくまれていないが、すでに注目されて高い評価を集めている。
あるアニメ製作スタジオの終焉について(高栖匡躬) - カクヨム

TVアニメ『星のカービィ』全100話を制作したことで知られています。今でもその名を覚えているファンの方は多いでしょう。

あれだけのヒットを飛ばしながら、ア・ウンは今存在していません。成功をおさめ、次回作に期待がかかっていたア・ウンは、なぜ解散してしまったのか?

制作会社の倒産にいたるまで、脇道たっぷりに語られているが、その試行錯誤の過程そのものが読んでいて楽しい。
今はなきア・ウンが、もともと任天堂関係のゲーム会社だったとは知りもしなかった。だからキラーコンテンツ的な原作ゲームを潤沢な予算と当時は珍しい3DCG多用でアニメ化できたのかという納得感もあった。


それに実名をつかっていることもあってか、対立する相手の心情や立場をおもんばかる視野の広さがある。業界暴露話のようでいて、読んでいて後味の悪さがない。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880567276/episodes/1177354054880567316

 ア・ウンの側からすると、ゲームとしての『星のカービイ』は単なる素案でしかなく、それに愛情を注いで育て上げ、命を吹き込み、アニメという別次元の作品に仕上げたのは自分たちだという自負があります。

 要するに、お金の話ではありますが、実際にはお金の話よりももっと大きな、表現者としてのプライドが掛かっているのです。


 でもこれは、筆者が大きくア・ウンに肩入れしていたから思う事。

 製作費を負担した側に分があるのは、世の習いです。もしも筆者が任天堂側の人間だったとしたら、きっと同じ判断をするでしょう。


さらに読みすすめていくと、意外なかたちで別の業界にもふれられている。
次回作の制作予算を獲得するにあたって、筆者はさまざまな先駆者に助言を求めていた。そのひとりとして、外国の制作会社に関与していた匿名スタッフが登場する。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880567276/episodes/1177354054880830698

吉川惣司さん脚本による、日本で初めてCGを前面に出した映画『SF新世紀レンズマン』(1984年)では、CGパートはJCGLが担当しています。そして好都合な事に、Hさんは当時、吉川さんの担当でもありました。

 Hさんはなんと、当時ナムコが出資をした、米国の大手CG&VFX・プロダクション、リズム・アンド・ヒューズのお目付け役として、ナムコLAに赴任していました。なかなか連絡が取れなかったのはそれが理由でした。

(リズム・アンド・ヒューズがCG&VFXを担当したハリウッド映画は数知れず。元JCGLの日本人スタッフも複数名在籍。残念ながら2013年に倒産)

このノンフィクションでは倒産したとふれられているだけだが、この会社は映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のVFXを手がけたことで知られている。
そう、リズム&ヒューズこそは倒産直後にアカデミー賞の視覚効果賞を受けた会社であり、その倒産を題材にした短編ドキュメンタリー『Life After Pi』で注目された会社である。

技術力があり、内外で高い評価を受けた作品の直後に倒産したという、不思議な縁でア・ウンと共通点かあるわけだ。


これ以降も、海部俊樹元首相の息子にしてWOWWOWのアニメ枠で手腕を発揮した海部正樹プロデューサーが登場したり、意外な人物がつながってくる。ひとつの会社の倒産をふりかえるだけのエッセイでありながら、アニメ業界をひとつの視点から見とおすノンフィクションとしてもすぐれている。
早く完結まで読みたいものだし、コンテスト外ジャンルなのに外部からのオファーで商業出版されそうなクオリティはある。その場合、資料として買いたい気持ちも実際ある。このエッセイが公開されただけでも「カクヨム」の存在意義はあった。