法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび泥棒をタイホせよ!/あの子を笑わせろ!

アニメオリジナルの前半と、原作をアニメ化する時にテーマを変えた後半と。ベガエンタテイメントが制作協力し、作画は整っていて動きもいい。
また、リニューアル前に出木杉を演じていた白川澄子氏が亡くなったことをテロップで告知していた。


「のび泥棒をタイホせよ!」は、小学生でも楽しめる鬼ごっこをしようと、秘密道具「なりきりケイドロセット」で2チームにわかれて追いかけっこをはじめる……
白川氏の訃報が流れた直後に放映されたのが、出木杉が活躍するアニメオリジナル回。きちんと生前にひきつぎできたと思えば、救われる話かもしれない。
まず、オールマイティな出木杉らしい活躍が、ちゃんとアニメとして魅力的に描かれる。たくみにロープをつかったり、逮捕された味方チームを解放したり。性格のいいキャラクターがドロボウにわりふられ、ジャイアンスネ夫がケイサツにわりふられているという逆転も楽しい。
そしてドラえもん側も知恵をはたらかせ、脱走を手助けする出木杉に的をしぼり、逃げ場のない橋へと追いつめていく。それでも脱出しようとする出木杉に、しかけた罠が発動。しずちゃんが微妙な言動をしていたので見当はついたが、のび太が相手だったので気づかなくても自然。しかし、のび太は最初に自分から捕まりにいき、罠に利用されるほど甘く見られていたからこそ、逃げきって終わるという皮肉。
敵味方が知恵をしぼっており、どんでん返しが見事。町内全体を逃走劇の舞台にする映像も魅力的。架空ゲーム回として非常によくできていた。


「あの子を笑わせろ!」は、笑顔を見せずに壁をつくっている転校生を、今日こそ誘うべきだとしずちゃんが主張する。そのため「表情コントローラー」を使うのだが……
原作のムス子は転校生ではないし、表情コントローラーでつくられた笑顔を魅力的だと皆がいう。わざわざ誘った遠足のスライドショーよりムス子の笑顔に注目するほどに。だから無理やりな笑いでアゴがはずれた場面がオチとなった。
今回のアニメでは、原作では描かれないスライドの描写が長くて、アゴがはずれた後も物語がつづく。秘密道具でつくらなくても、周囲にはわかりにくくても、ちゃんとムス子も笑っていたのだと、のび太は気づく。
つくった表情でも距離をちぢめる助けになるし、それで隠された魅力がわかっていくという原作。表情をつくらなくても、見えにくくても、人それぞれの魅力があると知っていくアニメ。周囲に同調させようとするテーマから、個性を尊重するテーマへと、ぐっと現代的に変わった。テーマを変化させるアニメ化は必ずしも好きではないが、今回は物語としてのまとまりがある。イジメ問題などを考慮すれば変更する必要性も理解できる。これはこれで悪くない。
コンテ演出は今井一暁で、今でいう「顔芸」の連発が楽しかったし、CM明けのキャラクター作画なども良く動いていた。終盤のアニメオリジナル部分の、広々とした夕焼け空も印象的。