法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『装甲騎兵ボトムズ 孤影再び』

さまざまな勢力から追われる男、キリコ・キュービィ。彼は昔の仲間がいる砂漠都市グルフェーへ向かっていた。
あっさり仲間と再会できたキリコだが、別の目的をにおわせながら、グルフェーの政争に巻きこまれていく。
やがてキリコのため巨大宗教マーティアルと離別した女、テイタニアもその地へやってくるが……


ボトムズフェスティバルで『装甲騎兵ボトムズ Case;IRVINE*1ボトムズファインダー』*2につづく第3弾として2010年に上映された中編OVA
ボトムズWeb | 装甲騎兵ボトムズ 孤影再び
TV版の配信が3クール目にさしかかったGYAO!で、11月27日から無料配信予定。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00066/v13086/
高橋良輔監督が雑誌で連載した小説を、池田成コンテ脚本で映像化。さまざまな思いや願いがあつまっていく古い都市を、ロングショットで見せていく。
キャラクターとメカニックのデザインも塩山紀生大河原邦男。そうしてTV版と同じスタッフでかため、最も旧作に近い作品となった。それでいて現時点でシリーズ最新作なので、3DCGによるメカニック表現が最もなじんでいる。


物語としてはTV版の直接の後日談というより、シリーズ初のTV後日談『赫奕たる異端』の補足と決着といったところ。設定上の時系列こそ前後するが、TV版の仲間との再会はすでにOVA『幻影編』で映像化されており、それだけを売りにする意味は弱い。
そこで出てくるのが巨大宗教マーティアルの新たな位置づけだ。教皇選出をモチーフにした『赫奕たる異端』では、政争にあけくれて弱者を利用するだけの、信仰が形骸化した巨大組織にすぎなかった。それゆえ策謀の加担者であり被害者でもあるテイタニアは、宗教に反旗をひるがえしたキリコを追う結末となった。
この『孤影再び』では、そのように権威だけが残った宗教でも、貧しく抑圧された都市においては支えとなることが描かれる。さまざまな政治的な圧力に対して、宗教という非合理的な信念が力となるのだと。
もちろん、テイタニアが離別したままであるようにマーティアル本体の問題は残っているし、都市内でも陰謀をめぐらすマーティアル聖職者がいる。その上で、かぎりなく異端に近づきながら信仰が回復するまでを描いていく。権威を必要としない子供たちの祈りの純粋さ。権威を必要としない奇跡の体現者キリコ。神を失ったテイタニアの旅路の終わりに、痩せ我慢であたえられるいつくしみ。
このドラマの結末には、年月とともにエピソードを重ねていったシリーズならではの重みを感じた。


いずれにせよ、ひとつの都市で宗教をめぐる物語として完結しているが、長期シリーズの直接の続編ではある。できればTV版とOVA『赫奕たる異端』は押さえておきたい。ついでに『赫奕たる異端』を楽しむためにはOVA『レッドショルダードキュメント 野望のルーツ』を見ておかないとキリコの異能性が把握しづらい。