法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラゴンボール超』第5話の作画評価について少し

「おたぽる」というサブカルチャー中心のWEBニュースサイトがある。
その記事はYAHOO!をはじめとした各ニュースサイトで配信されているが、「サイゾー」が出しているので、クオリティはそれなり。


その「おたぽる」が今週、『ドラゴンボール超』の作画に対する不満をまとめていた。沢野奈津夫ライターによる記事だ。
『ドラゴンボール超』の作画が幼稚園児レベル? 右手が左手のべジータに悲鳴続出!|おたぽる
まだ第5話までは見ていないのだが、それでも記事の内容がひどいことはわかってしまう。

7月5日の初回放送を終えると、視聴者の不満の声が少しずつ聞こえるようになり、8月9日に放送された第5話「界王星の決戦!悟空VS破壊神ビルス」により爆発することとなった。

まず個人的な感想から入るが、最近の東映TVアニメとしては、そう悪くない作画だと思っている。たとえば第2話などは林祐己や後述の舘直樹が原画に入っており、なかなか良いアクションシーンを展開していた。
最近の『ドラゴンボール』の新作アニメというと、ゲーム内映像や劇場版や再放送OPのように力を入れる媒体のものばかりだったので、比べると期待外れになるのかもしれないが。


記事の中身を読むと、匿名の「芸能ライター」を介するかたちインターネットの不評を引いている。

「作画があまりにもひどいんです。始まった当初から違和感を覚える視聴者は多かったのですが、先日放送された5話で初めて本格的な戦闘シーンが描かれ、そこで一気にみんな引いてしまいましたね。動きは固いし、遠近感はブレブレだし、顔つきは腑抜けみたいだしで、正直言って幼稚園児レベルですね。極めつけは、次回予告のビルスに向き合うべジータの右手です。右手なのに親指が外側にあり、まるで“右手が左手”みたいになってしまっているんです。これにはファンも『恐怖映像!!』『いや、左手の手袋を右手にしてしまっているだけに決まっている!』『いや、ジョジョの“両手が右手の男”J・ガイルへのオマージュだ!』と、混乱の声が上がっています」(芸能ライター)

予告映像は公式サイトで公開されているが、視聴してみたところ「ベジータの右手」は目立ったものではない。
ドラゴンボール超 東映アニメーション
フラフラと駆けよる流れの前半に、たしかに右手が左手のように見える絵がはさまっている。よくある1枚だけの中割ミスではなく数枚の絵がそうなっていることから、おそらく下書きにあたる原画に1枚だけミスがあり*1、その絵をクリンナップして前後の絵を中割りして足す動画マンがミスを見逃してしまったのだろう。
おそらくフラフラした動きを表現するため手首をブラブラゆらすように原画を描いて、しかし粗い線を引いたため手の曲がる向きが反対に見えるような絵になってしまい、それを動画マンがかんちがいしてクリンナップしたパターンだと思う。ちょうど1週間ほど前、北久保弘之監督のAsk.fmで動画を混乱させる原画として、複数枚の原画で1枚だけ間違えるパターンのひとつが回答されていた*2

「製作元である東映アニメーションが、予算の都合でフィリピンやインドの、ろくに『ドラゴンボール』を知らない制作会社に委託してしまっているからといわれています。制作費の安いこの世界ではよくあることですね。それでもファンからは『ドラゴンボールというキラーコンテンツで節約とか意味分からん!』『さすがにこの作品だけは大事にしなきゃダメでしょう!』と、怒りの声が上がっています」(同ライター)

作画作業の一部を海外に委託するのは、昔からよくあること。むしろそうしないと全体が破綻する。
当然、過去の東映作品もそうだったし、特筆できる問題ではない。「おたぽる」記事内でも否定されているデジタル移行説と同じように否定すべきだ。
そもそも、動画マンが原画の意図を理解できずに奇妙なアニメーションをつくりだしてしまうのも、先述した北久保監督の事例のように、昔からよくあることではあった。
アニメーターさん達のトンデモ動画についてのつぶやきまとめ - Togetter
海外動画は意図がつたわりにくい傾向がないとはいえないらしいが、国内動画でも問題が出ないわけではない。そうした動画のミスを直す動画検査や、その回の全体を統括する演出がきちんと仕事をできているならば、とりあえず完成画面は問題なくなる。予算をさくべきはそこだろう。

 ジブリはもとより、細田守監督の『サマーウォーズ』や『バケモノの子』など、絵が滑らかで綺麗な作品が続々と登場してきている昨今のアニメ界。それだけにオールドファンとしては、これからの『ドラゴンボール超』の巻き返しに期待したい。

第5話の原画を修正する作画監督が舘直樹*3ということを考慮すると、この記述は首をかしげるものだ。
細田守監督は東映出身であり、初長編監督も『ONE PIECE』映画シリーズの6作目『ワンピース the movie オマツリ男爵と秘密の島』だった。TV版からキャラクターデザインを大きく変えて、トップクラスのアニメーターを集めて、影を少なく流れるような人体の動きを映像化したことで、物語ともども衝撃をもってむかえられた。

その作画に影響されたのが舘直樹で、9作目『ワンピース THE MOVIE エピソード オブ チョッパー プラス 冬に咲く、奇跡の桜』*4のキャラクターデザインおよび作画監督に抜擢された時、同じようにフォルムを優先した作画を披露していた。

細田監督は東映をはなれた後も、作画において描きこみの細かさより人体のフォルムや動きを重視している。基本的に絵の粗さが不評な『ドラゴンボール超』のひきあいに出す理由がよくわからない。


ちなみに下記Togetterの[twitter:@douron1211]氏によると、少なくとも第5話でもクライマックスは舘直樹作画監督らしいクオリティを上げているという。
ドラゴンボール超の作画崩れ問題で舘直樹氏に罪を被せる人達 - Togetter
またこのTogetterを読んで、「おたぽる」記事とは反対に、作画監督の個性に原因を求めるツイートが複数あることも知った。個人の責任に還元することをdouron1211氏に批判されているが、責任者として名前が出たスタッフに対する自然な反応ではあり、むしろ商業媒体の「おたぽる」のひどさが浮きぼりになる。

*1:動きはじめと途中からは、はっきり右手と左手の区別がついている。個別「20150814102113」の写真、画像 - hokke-ookami's fotolife 個別「20150814102111」の写真、画像 - hokke-ookami's fotolife この場合、原画マンが担当カットの複数枚の原画をすべて間違ったパターンではなさそう。

*2:仕上げや動画が困る原画ってありますか? | ask.fm/LawofGreen

*3:その上に総作画監督として井手武生が入っている。

*4:2008劇場版ワンピース 公式サイト