法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『どろろ』ばんもんの巻・その三

出崎統が演出かつ一人原画に近い仕事を行った回*1。血のつながった家族と知らずに主人公が出会い別れる重要エピソードの、結末でもある。GYAOで視聴した。
当時のアニメ制作においては原画の担当する分量が少なく、現在とは違って動画が動きのメリハリも作っていたのだが、それを考慮しても作画が良い。次回予告映像にも用いられた騎乗の剣戟など、絶妙なアオリ具合であった。森の中では、上を見上げて梢から漏れる陽光を描くカットがあり、後の透過光演出を思わせたりもする。三回PANや止め絵ハーモニーこそなくても、確かに出崎演出作品なのだと感じさせられたし、出崎監督が具現化を目指した脳内像がうかがえた。


また、今回の話は、サブタイトルからもわかるように朝鮮半島を分断する板門店を風刺した内容である。敵味方で領地を分断していた板壁の残骸である「ばんもん」をめぐって、血をわけた兄弟の分断が描かれる。
原作では最終的に「ばんもん」が壊れ、分断された土地の行き来が可能になるのだが、アニメでは「ばんもん」が壊れること自体は同じでも流れが異なる。原作は妖怪との戦いが終結したことを知らせる行動で「ばんもん」が倒れたのだが、アニメは戦闘の影響で壊れただけであって主人公の介在度が低い。そして「ばんもん」が壊れても戦争が始められる。きれいに話をまとめた原作より、アニメの方が現代的でハードボイルドという印象を受けた。

*1:どろろ』文庫版での解説において出崎監督自身がそう書いている。