法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『神撃のバハムート GENESIS』episode12 Rage of Bahamut

山下明彦コンテ演出でおくる最終話。原作ゲームから引用したらしき魔物や天使のデザインがTVアニメのデザインと齟齬を感じさせつつも、総力戦らしい豪華な絵を前面に展開できていたのは良かった。
作画監督が複数いるが、これはサブキャラクターデザインが入っているためで、実質的には少数精鋭で作っているといっていいだろう。映像の物量に比べると第一原画のアニメーターも少ない。よほど制作に余裕があったことをうかがわせる。


物語も、バハムートという神も魔もおそれる存在の復活をめぐりながら、いい意味で余裕を感じさせた。バハムートが復活した時に封印する方法を前もって説明しておいたこと、敵味方をあやつった黒幕のスケールを適度な大きさにとどめたおかげだろう。
特に全てを背後で操っていた黒幕は、思想犯ですらないようでいて、けっこう独特の立場で面白い。前回に指摘されたように能力そのものは高くなく、愉快犯のように世界を壊そうとした。あらゆる者を騙して利用した黒幕は、主人公ファバロの見事な対といえる。
あくまで口先三寸で戦う小悪党同士だったから1クールで物語がきれいに終わったわけだし、その小悪党の小さな火種でも燃えあがるだけの問題を世界がかかえていたことは終わらない。


バハムートを封印させる展開も、あまり究極の選択は好みではないのだが、それなりに納得のできるかたちになっていた。
まず封印の前に黒幕と決着をつけたのだが、そこで見事な頭脳戦を見せたのが大きい。直前まで知恵をめぐらして戦っていることが、ただ運命として究極の選択を受けいれたわけではなく、葛藤していたし思考もしていたのだろうと感じさせる。ここはファバロとカイザルの対立の果てというドラマとしても純粋にぐっとくる。
封印においてアーミラと別離する場面も絵になるし*1、いろいろな意味で幼い二人なりに終点へたどりつけたという感慨があった。
そして全てが終わったかに見えた後、ファバロを長い旅へとまきこんだ発端の問題が、再会を予感させる手がかりとして新しい意味をもつ。そして第1話とそっくり同じ情景が、より前向きな新しい旅のはじまりとして描かれる。


リタの結末などで描写不足も感じたが、それらも開かれた結末ゆえに想像力を働かせる余地と感じた。いい最終回だったと思う。
最終回なので全体の感想も書いておく。とにかく破格の制作リソースを無駄にすることなく、見事に娯楽作品として使いきった。個人的には重厚で思わせぶりな映像作品も好きではある。しかしこの作品はいくらか作画が悪くても、多少は演出が平凡であっても、それなりに物語を楽しむことができただろう。
敵味方のキャラクターは魅力的でわかりやすく、個々人の欲望や信念にしたがって行動しつづけ、展開が停滞しない。その展開の早さが、そのままさまざまな舞台を旅する映像の面白さにつながる。行動動機がしっかりしているから群像劇になっても見ていて混乱しないし、知恵をしぼったかけひきが楽しめる。
かといって台詞や説明だけで物語が進むわけではなく、主人公が旅をつづけざるをえなかった理由などは、ちゃんと絵として提示されている。映像でこそ最大の魅力が生まれる要素で作品が構成されていた。
結果的に大ヒットしたものの制作リソースに不足しつづけていた『TIGER & BUNNY』のスタッフが、パトロンの力で最大限の真価を発揮した。そう感じさせる良い作品だった。

*1:アーミラが封印から逃れられそうに見えてしまったので、幻影として立体的に現れることなく、あくまでバハムートの瞳に像として映るだけがベストだったと思うが。