法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』消費税が上がるゾ/アイドル先輩が来たゾ/チョコビアイスが食べたいゾ/2013年春公開「映画ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)」

クレヨンしんちゃん』の3本立てと映画宣伝映像、そして『ドラえもん』は昨年の映画本編と今年の映画宣伝を合わせた、長時間スペシャル。


「消費税が上がるゾ」は8%へ上昇するという時事ネタで、急いで購入しようかどうか悩む野原みさえの姿を描く。内容は特にひねりがない。しかし1997年に5%へあがる前からこの作品は放映されているのに、しんのすけが消費税増税を知らないという、長寿作品ならではの時事ネタの難しさが気になった。
「アイドル先輩が来たゾ」は卒園した美少年が幼稚園へ遊びに来て、その大人なふんいきにネネちゃんがのぼせてしまう。子供には少し上の世代が大人に見えるがやっぱり子供なんだよ、という話をほほえましいラブコメで描く。
チョコビアイスが食べたいゾ」サブタイトルそのまま、あちこちで売り切れているチョコビアイスを探して、父子ふたりで栃木県まで行ってしまう。けっこう映像の楽しみが多くて良かったよ。


映画『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館は、寺本幸代監督が手がけた大ヒット作。オリジナルストーリーながら、マニアからの評判も悪くなかった。映画館へ行く余裕がなくて、今年はTVで初鑑賞。
ここ数年のTVSPを延長したようなスケールだが、背のびしないことで話がまとまっている。あくまで娯楽活劇にてっして、明るい気分で終わらせる。しかし科学技術のはらむ危険を台詞では語らずとも、物語をとおして考えさせる。


物語は、スタッフクレジットから判断すると、漫画担当者むぎわらしんたろうがプロットを提示していそう。細かなサブストーリーをつなげて大きなメインストーリーになる構成も、連載漫画のよう。
内容はミステリじたてでも、解くべき謎だけを残して、もったいぶらずに情報を明かしていく。その早々とした展開のおかげでストレスがたまらず、キャラクターの数が多くても混乱することがない。
オリジナルゲストキャラクターは重すぎず軽すぎず、のび太ドラえもんのドラマを邪魔せず、しかし充分な存在感を出す。別々の場所でドラマが同時進行する複雑な構成を、博物館周辺という限られた舞台で展開しながら、話運びが混乱していない。
宣伝映像で使われた場面が、実際の映画では意外な意味だったところも、ミステリをモチーフにした作品らしい驚きがあった。


ミステリの真相は子供向けだが、なぜ他人には価値のない鈴が盗まれたのかというメインの謎で上手に古典を引用。うまく古典より伏線を入れて長編に溶けこませており、ミステリ好きとして好感が持てた。個人的にタイムパラドックス展開かと予想し、それより説得力ある真相があかされたので、良い意味で予想外だった。
怪盗DXの正体もあからさまだが、このタイプは観客が正体に気づいていても、演技しているキャラクターを見て楽しむことができる。ミスディレクションの真相は伏線が不足気味だが、中心となる秘密道具が風景の片隅で印象深く描かれつづけていて、そこそこ納得できた。
その他、少年クルトとペプラー博士の出会いなど、伏線と思わなかった描写が細かく回収されていき、パズルのピースがはまっていくような快感を味わうことができた。


SFとしては、ほとんどの秘密道具にフルメタルという特殊な金属が使われているというオリジナル設定を導入。そのフルメタルが枯渇しかけているためペプラーメタルという新金属をつくろうとするペプラー博士が登場。しかし科学技術を過信したことで、大きな騒動を引き起こしてしまう。
これは完全にOVAジャイアントロボ THE ANIMATION 〜地球が静止する日〜』と同じ構図だ。科学への希望と失望が隣りあわせなテーマといい、ひとつの技術にたよっている文明のもろさといい、科学者ふたりの関係性といい、ラストバトルでドラえもんが戦えるロジックといい。
もちろん盗作といえるほど似ているわけでもなく、ちゃんと作品内で結末をつけているので、問題なく楽しめたが。


残念なところとして、鈴にこめられた思い出まで完全にアニメオリジナルだったこと。てっきり猫集め鈴を修理して小型カメラにした原作設定を使って、たいせつな思い出のデータが入っているという展開をするかと思っていたが。アニメオリジナルの思い出だからこそ、最後に鈴が見つかった時の台詞を印象深くできたことはわかる。その上で、どこか原作の設定も反映させてほしかったな。
同じように、作品全体の根幹設定に全くオリジナルの金属技術を導入されたことには、やや引っかかりをおぼえた。てっきり既存の秘密道具、たとえば「合成鉱山の素」をフルメタルの応用として後づけするとばかり思ったのだが。
全てのオリジナル設定にきちんと前ふりがしてあって、映画だけで見るならば問題はないのだが、ここまで物語に完成度が高いなら原作と密接なつくりにしても良かった。


映像面でいうと、リニューアル後のシリーズにおいては最もアニメーションの快楽にたよっていないつくり。作画監督は多めだが、リニューアル後のシリーズとしては全体が統一されている。シャープで硬質な描線は芝山努監督時代のようだ。複雑な物語構成を支えるように、全体がコントロールされている。
いくつか見せ場を配置しつつも短く終わらせて、キャラクタードラマを優先。例外は最後のロボットアクションくらいだが、これも8頭身ドラえもんの奮闘という笑えるビジュアルで熱いドラマを描くために必要なボリューム。
かわりに表情や芝居という演出や、ドラえもんの鈴が変わりつづける遊びで楽しませる。ややクローズアップが目立つコンテだったが、ほとんど屋内劇だったからか。スケールの小さなドラマで表情を重視した演出ならば、これはこれで正解だろう。
もちろんそうそうたるアニメーターが参加していることもあって、修正をへてなお目立つ作画がところどころあった。おそらく怪盗DXが登場して攻撃を避けまくるあたりが伊藤秀次で、スネ夫ジャイアンがペプラー博士の隠れ家へ突入するあたりが森久司だろう。ラストバトルのたっぷり枚数を使ったアクションも良かった。