法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』熊本のじいちゃんのヒミツだゾ/星を見に行くゾ/帰ってきた!鑑識しんちゃんだゾ/「映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生」

平井峰太郎コンテ演出の短編3つと、映画のほぼノーカット放映をあわせたスペシャル。


「熊本のじいちゃんのヒミツだゾ」は、こっそり上京した祖父の様子をさぐりに、しんのすけとひろしが後をつける。老いらくの恋を疑う展開があったりしつつ、家族というせまい枠組みのコメディとして終わる。あらかじめサブレギュラーの設定を知っておかないと、展開が追えないのが難かな。
「星を見に行くゾ」は、高台へ星を見に行った野原一家が、先に天体観測をしていた桜田一家と出会う。顔見知りだが特に仲が良いわけでもない、しかし今後もつきあいを続けなければならない、そんな家族の微妙な距離感が、コメディでありながら胃が痛くなる。しんのすけの行動がいつもよりおとなしく、それゆえ図々しい頼みでも拒絶せず受けいれるしかない逆説もおもしろい。
「帰ってきた!鑑識しんちゃんだゾ」は、いつものキャラクターが違う役割を演じる外伝的シリーズのひとつで、どんな簡単な事件でも迷宮入りにしてしまう特命鑑識捜査課が活躍する。園長が富豪として密室で倒れていた事件は、驚いてワインをこぼして倒れただけという真相があっさり解明されるが、保母メイド3人が秘密にしていたことをあばいていく。驚かす原因となった音が何だったのか、ていねいに捜査で掘りおこされていき、意外と短編ミステリとしてよくできていた。ひとりさびしくワインをあけようとしていた富豪と、サプライズで祝おうとしていたメイドたちの関係も、構造だけなら真面目なドラマになりうる。


『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生は、見事に原作を再現しつつテーマを現代的にふみこみ、昨年に劇場で鑑賞した時と同じく好印象。
『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』 - 法華狼の日記

安易な愛国主義になりかねないテーマを、原作にもとからあるモチーフをほりさげて相対化。未開とされる異文明への敬意と、歴史を簒奪しようとする者の必然的な敗北を描いていく。
さらに原作で出番の少ないククルを活躍させるだけでなく、意外な細部をくみとって伏線をはりめぐらせ、より現代的なジュブナイル作品にしたてていた。

特に日本人の来歴として、古代に中国や朝鮮やシベリアからわたってきたことを説明するドラえもんがいい。原作通りの映像化ではあるが、だからこそ現代に発信すべきメッセージとして力強く感じられた。


あらためてTVで見ると細部の良さにも気づかされる。地味に巧妙な改変ポイントとして、山奥村がダムに沈んで、部屋が水浸しになるシークエンスがある。
展開そのものは原作通りだが、今回のアニメ化では部屋が完全に水没するという情景から、通り抜けフープを使って屋外へ水を排出するという描写へつなげる。オリジナル描写がビジュアルとして楽しいだけでなく、ここで秘密道具の機能を紹介しておき、終盤に敵の技術で機能が発揮できない描写をわかりやすく映えさせる。
さらに水に濡れた答案用紙を乾かす描写から、それをドラえもんがポケットに入れる描写へつなげ、映画のクライマックスで使用する展開が自然になる。原作の出来事を娯楽描写として拡大しつつ展開を緊密にする、一石二鳥どころか三鳥四鳥の改変だ。