法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

あくまで村山談話は折衷策であって、もともと被害者側から継続した批判がされている

ゆえに歴史の流れで見れば、当時の村山富市首相個人が媚びたために韓国がつけあがったという見方は不正確。
実際、批判されたと伝える共同通信の産経配信記事でも、その支援団体が別の折衷策に対して批判しつづけていることを中盤で明記している。新しく「面目丸つぶれ」になったわけではないのだ。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140212/kor14021222460007-n1.htm

 旧日本軍の慰安婦に対する日本政府の謝罪や賠償を求めている韓国の支援団体「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺対協)の尹美香常任代表は12日、韓国訪問中の村山富市元首相を「慰安婦問題に非常に大きな傷を与えた政治家だ」と批判した。挺対協が毎週水曜日にソウルの日本大使館前で開く抗議集会で述べた。

 挺対協は、村山政権が進めた「アジア女性基金」による元慰安婦への償い金支給について、日本政府が法的責任を認めたものではないとして受け取りに反対してきた。

 尹氏は村山氏について、野党時代の社会党(当時)は日本政府の責任を追及していたが、首相になると立場を変え「日本政府は戦後補償をできない」と言い始めたと指摘。「被害者の反対にもかかわらず、基金による(償い金)支給を強行した」と主張した。(共同)

記事の末尾を見ても、批判の理路に筋が通っていないわけでもない。加害国側の責任者が妥協策を示した時、被害者は必ず受諾しなければならない決まりはない。むしろ妥協策によって被害者間の分断が生まれる問題は、日本国内の社会運動でも珍しくない。
そもそも村山元首相は韓国の政党に求められて訪韓したのだし、その正義党からは「最高指導者として国家が行った過去の過ちを反省して謝罪するのはかなり難しいことだが、それなのに総理の勇気と美徳の言葉にわが国民は大きな感銘を受けた」*1と評価する発言も出ているという。また、村山元首相は韓国国会内の超党派会合で講演し、11日には元慰安婦へ面会もしている*2
もちろん一団体の批判でも重要視することそのものは悪くない。それに村山元首相の訪韓が全ての批判をなくすことが最低目標だったならば、たしかに「面目丸つぶれ」と評してもいいだろう。しかし記事に書かれた範囲では、高い目標を勝手に設定して届かなかったから批判しているだけにしか見えない。


さらに不思議に思うのが、インターネットの反応。村山談話アジア女性基金に対して、もともと被害者や支援団体から批判があることを指摘する声が少ない*3。ほんの20年前のことも忘れさられてしまったのだろうか。
はてなブックマーク - 村山元首相の面目丸つぶれ 韓国の慰安婦支援団体 「大きな傷与えた政治家」と批判 - MSN産経ニュース
さらに不思議なのは、村山元首相の妥協策をリアリストの行動として賞賛する意見が見当たらないこと。普段は政治家の妥協策を賞賛しそうな人物が、あたかも村山元首相が韓国へ最大限に媚びていたかのような認識を示していたりする。
村山談話は当時の日本政府が認めざるをえない範囲までの責任を認めたものであり、それゆえ現在の政権にいたるまで踏襲せざるをえず、外国へ向けた説明でも活用されつづけている*4。よくひとくくりにされがちな河野談話にいたっては、現在の歴史研究の水準から見返すと、認識が不充分な印象すらある。