法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『特撮仕事人 特撮監督 佛田洋の世界』

主に東映の映像作品で特撮を手がけている佛田洋監督が、インタビューに答える形式で、過去の仕事をふりかえっていく。庵野秀明監督や矢口史靖監督との対談や、特撮研究所矢島信男会長の寄稿も収録されている。ほとんど文字情報だが、デザインスケッチや絵コンテも収録されており、内容は充実。


数多くの特撮作品にかかわりつつも、特撮監督が着目されるような仕事は少なかった佛田監督。
しかし、やはり特撮が重視される作品においては発言もいくらか残されており、既存のインタビューと重複する内容もある。『ハッピーフライト』をめぐる矢口監督との対談などは、フジテレビの特設サイトで語ったことを確認していった感が強い。
http://www.fujitv.co.jp/filmania/archive/005.html
そこで興味深いのが、一般映画の補助的なVFXを手がけた経験談だ。たとえば『北京原人 Who are you?』『千年の恋 ひかる源氏物語』『デビルマン』といった、はっきりいって珍作との評価がつきまとう大作に対して、作品の質に問題があることを笑いながら認めつつ、求められた仕事はきちんとこなしていった誇りを見せる。たしかにどれも物語や本編はともかく、特撮の質は高い作品だった。『アバレンジャー』から東映アニメーション東映特撮に参加した経緯に、『デビルマン』で協力した流れがあったことも確認できた。
長崎ぶらぶら節』や『千年の恋 ひかる源氏物語』で主演した吉永小百合と出会った経験も語られる。『長崎ぶらぶら節』のラストシーンで蛍が舞うVFXは、もともとCGで制作する予定で、佛田監督は前倒しの撮影を望んだ。しかし深町幸男監督を通して希望をいったものの、時系列通りの撮影を吉永小百合が求めたため、麦球を合成することになったという。その合成で小さな失敗があったため社長にしかられたが、そこでは逆に吉永からフォローされたりも。


また、『長崎ぶらぶら節』で戦艦土佐を描いた流れで、『男たちの大和/YAMATO』に参加し、次々に『俺は、君のためにこそ死ににいく』『聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実―』といった戦争映画を手がけることになったが、本人は軍事物には興味がないとのこと。たとえば『男たちの大和/YAMATO』で、歴史考証では間違っている戦闘機が画面に登場したのは、「似てるからいいや!」というノリだったらしい*1。『聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実―』でも、山本五十六の乗る機体が撃墜された場面で、ミニチュアを使った背景に日本の山が映りこんだミスを、結果として雰囲気が出たと語ったり*2
それでも何も考えずに戦争を撮っているわけでは当然なく、たとえば『聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実―』で艦隊の全景を見せているのは『男たちの大和/YAMATO』で1隻しか画面に映せなかったリベンジ。その『男たちの大和/YAMATO』でも、石田直義という主砲測距儀手から証言を聞いた上で制作している。グラマンのミニチュアが大和のミニチュアとの比率から考えて大きすぎるのは「操縦席に乗ってる米兵の鼻だけがやけに目に付いた」という石田証言から現場の心象をくみとって映像化したものだし*3、沈没する大和の測距儀が回転する描写も石田証言を再現したものだ*4

*1:248頁。詳しい特撮スタッフが現場で首をかしげたそうだが、それでも「いいからもう! 似てるから飛ばせ!」とかっこよい絵を撮った結果、予告の頭で使われて、見事に叩かれたと笑い話にしている。

*2:251頁。

*3:233頁。以前に片渕須直監督がコラムで指摘していたように、日本で空襲を受けた証言者も、しばしば現実より近距離から大きな敵機に攻撃されたと語っている。普遍的な人間心理なのかもしれない。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100918/1284838082

*4:234頁。