法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

福島原発事故の公開映像についての報道備忘録

まず、一つの争点となっている全員撤退指示について。
以前の政府事故調による報告では、菅直人前首相らの誤解と結論付けられた。
http://mainichi.jp/select/news/20120626k0000m010138000c.html

東京電力福島第1原発事故直後、菅直人前首相らが東電から原発からの「全員撤退」を伝えられたと主張している問題で、政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)は7月23日に公表される最終報告書で、東電は撤退を検討せず菅氏らの誤解と結論づける方針を固めたことが、関係者への取材で分かった。危機的状況で退避検討のきっかけとなった2号機が峠を越し退避の必要がなくなったのに、官邸の連携不足で菅氏らに伝わらず「全員撤退」という誤解を解消するきっかけを失った可能性があったという。

http://mainichi.jp/select/news/20120626k0000m010138000c2.html

 関係者によると、14日から15日未明、官邸側には当時の清水正孝社長から2号機が最悪の事態になれば退避する可能性が伝えられた。ただ、清水氏は「退避しても必要な作業員を残す」と明確に伝えていなかった。さらに、2号機が危機的状況を脱したとの情報は、官邸地下には同時に伝えられたが、菅前首相らがいた官邸5階には即時に伝わらなかった。

たしかに東電から「提供」された映像によれば、その時点での退避は考えていないという発言が確認されている。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120806/dst12080622000021-n5.htm

 《議論を呼んだ撤退問題。東電が原発からの全面撤退を検討したかのようにも取れる発言はこうだ》

 高橋フェロー「これ、避難・退避は何時になってるんだろうな。全員のサイト(原発)からの退避というのは何時ころになるんですかね?」

 本店社員「まだ早いです。まだこれが落ち着いてからですね」

 高橋フェロー「本店の本部の方、ちょっと聞いていただけますか。1Fからですね、いる人たちみんな2Fのビジターズホールに避難するんですよね?そのときね、2Fの方で、給電、配電がですね、給油してくれないとか、水がほしいって話があるんですよ」

 《やりとりの中で「全員」という言葉もあったが、東電が全面撤退を検討した明確なやりとりはなかった。清水社長の次の発言が、国会事故調が「東電は全面撤退を考えていなかった」とした根拠となった》

 清水社長「あの、現時点でまだ最終避難を決定してるわけではないということをまず確認してください。それで、今しかるべきところと確認作業を進めております」

この場面は下記YOUTUBE映像でも2分40秒ほどから確認できる。

しかし、公開された映像は利用できるよう「提供」されたものだけではなく、「閲覧」のみが許されたものがあった。NHK報道によると、実際に撤退したとおぼしき場面があったという。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120807/k10014119071000.html

提供以外の閲覧用の映像は、録画や録音が認められなかったため入手できていませんが、これまでに閲覧できた中でも、事故対応を検証するうえで重要な場面が記録されていました。
具体的には、1号機が水素爆発したあとの去年3月12日の深夜、現場を支援する役割を担う本店の対策本部の幹部が「解散」と発言し、その後、円卓に座っていた清水元社長以下、ほとんどの幹部が席を立ち、いなくなっていたことが分かりました。
東京電力は「技術者が残り対応していた」としていますが、緊急事態が続いているのに、一時的とはいえ、ほとんどの幹部が対策本部から姿を消していたことになります。
これらの場面は、東京電力の提供映像にはなく、閲覧できる映像の中で初めて明らかになった事実で、当時の対応が適切だったか検証する必要があるとともに、事故対応を検証するうえでも全面的な映像の公開が求められます。

ここでは「撤退」ではなく「解散」という言葉が用いられたらしい。
あくまで推測だが、3月12日の行動があったから、菅前首相が現場へ行った時に、撤退するつもりはないと明確に回答することができなかったのかもしれない。
そして時系列で考えると、水素爆発後の3月12日に一時的に撤退し、峠をこした3月14日は撤退しなかったということで、説明に明確な矛盾はない。「誤解」を招くような不都合な行動を隠しているだけだ。


また、同じように争点となった海水注入指示について、行いたいと現場が連絡して、本部が「もったいない」と反応したことを時事通信が伝えている。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201208/2012080800852

 圧力容器などが海水の塩分で腐食し、廃炉になるのを恐れたとみられる。東電は6月に公表した社内調査の最終報告で「本店対策本部を含め、事故収束に向けた対応をしていた」として、海水注入をためらったとの見方を否定していた。
 映像によると、13日夜、東電本社で復旧計画の策定を担当する復旧班の人物から「海水からいきなりやるふうに聞こえていて」と疑問の声が上がった。肩書や名前は明らかにされていないが、この人物は「こちらの勝手な考えだと、いきなり海水っていうのはそのまま材料が腐っちゃったりしてもったいないので、なるべく粘って真水を待つという選択肢もあると理解していいでしょうか」と尋ねた。
 これに対し、吉田所長は「今から真水というのはないんです。時間が遅れます、また」と強調。「真水でやっといた方が、塩にやられないから後で使えるということでしょ」と問い返した。
 さらに吉田所長は「今みたいに(冷却水の)供給量が圧倒的に多量必要な時に、真水にこだわっているとえらい大変なんですよ。海水でいかざるを得ないと考えている」と断言した。
 復旧班の人物は「現段階のことは了解しました」と了承したが、この後も復旧班から「いかにももったいないなという感じがするんですけどもね」と苦笑交じりの声が漏れた。

連絡すること自体は間違っていないし、真水を待ちたいという心情を語ること自体は許容するべきかもしれない。苦笑するような緊張感のなさも、緊張し続けて心理的な問題が起きるよりは良いと考えたい。
ここでも問題となるのは、不都合な情報を隠蔽しようとしていたことだろう。いや、費用を優先的に考慮した要望を出したという意味では、ここは明確に虚偽報告と見るべきか。


今回の部分的な映像公開と、その報道を見ながら思い出したことがある。
毎日新聞の「核燃サイクル秘密会議」報道に、回答を拒否するため斬新な理屈が持ち出されたという記事があった。
http://mainichi.jp/select/news/20120619k0000m010142000c.html

内閣府原子力委員会原発推進側だけを集めて開いた「勉強会」と称する秘密会議で3月8日、使用済み核燃料を再利用する核燃サイクル政策の見直しを検討していた原子力委の小委員会に提出予定の四つのモデルケース(シナリオ)について議論し、このうち高速増殖炉(FBR)推進に不利なシナリオを隠すことを決めていたことが分かった。「表」の小委員会の会議には三つのシナリオしか提出されておらず、秘密会議が核心部分に影響を与えていた実態が一層鮮明になった。

http://mainichi.jp/select/news/20120619k0000m010142000c3.html

3月8日の秘密会議に職員5人が出席した内閣府原子力政策担当室は取材に「記者の質問がブラフ(はったり)かもしれず回答できない」としている。

とりあえず一般論をいわせてもらうと、信頼を失う原因は情報の周知不足にあることが多い。信頼や安心をえたいならば、きちんと求められる責任に応じて情報を公開することだ。