法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

情報の真否だけを問うか、情報の提示や検証の責任も問うか

はてな界隈エンマ帳 - fnorderの雑記(日記じゃない)*1

hokkeookamiさんは、脳内のロジックが謎だ。会話が成立してない気がする。

上記エンマ帳と、トラックバックが来たエントリ*2に対しては、内容に具体性が欠けていて、具体的な応答は難しかった。
しかし同日のエントリを見てみると、どこでfnorder氏との齟齬が生まれたか、一つの推測はできる。おそらく問題意識が共有できずfnorder氏にとって「謎」となるため、会話が成立しないのだ。
歴史修正主義とニセ科学 - fnorderの雑記(日記じゃない)

リビジョニズム大嫌いな人がニセ科学には意外と騙される。
まあ水伝や911陰謀論はダメ過ぎとして、低線量被曝で鼻血がどうとか原爆ぶらぶら病がどうしたとか、そっちになるとまともそうな人でも引っかかるようだ。

……反歴史修正主義を標榜する人たちが自然科学の専門家を信用したがらないのってなんなんだろうなあ。

具体的に誰を想定しているのかは判然としない。しかし仮に私のことであれば、「鼻血」と「ぶらぶら病」の両方を同じエントリで言及し、被害の訴えを真摯に聞くべきと主張したことはある。後述するように、fnorder氏もコメント欄に書き込んでいる。
放射線が原因でなくても、被害者の訴えは真摯に聞かなければならない - 法華狼の日記
しかし、どちらについても低線量被曝が原因という主張は行わなかった。そもそもエントリタイトルを見ても、放射線が原因ではないと私が想定していることは自明だろう。エントリ本文からも該当する部分を引いていく。

放射線の影響を見いだす主張が付随していたが、もともと子供は生活していて普通に鼻血を出すものであり、特別な理由を見いだすのは先走りというところで議論としては決着したらしい。

ラジウムを利用した蛍光塗料が床下に保管されていたためと確定した。
しかし、もちろん高放射線量という問題があることには違いがない。むしろモニターされていない放射線源が他にも存在する危険性が暴露されたわけで、今後の広範な調査や対策が必要というところにまとまった。

上記の出来事は放射線という原因、もしくは原子力発電事故という原因がそれぞれ疑われたが、結論として排された。

上記のとおり、鼻血については放射線が原因ではないことを前提として、それ以降の話に繋げている。

「ぶらぶら病」の原理は一説に心因性ともいわれているが、そのことは放置していい理由にはならない。心因性であると思われるなら、心理面での支援が必要であるということだ。

ぶらぶら病についても、具体的な原因として言及しているのは上記の心因性のみ。別エントリで「原理不明」*3とも表現したが、少なくとも放射線被曝が原因という記述はいっさい行っていない。


私が主張したのは、心理的な支援の必要性や、被害の訴えを制限するべきではないということ。

意識的に虚偽の証言でもしていない限り、被害者の主観においては、たとえ非現実的な陰謀論であろうとも被害が実在することに変わりはない。被害が主観だからという理由で全否定すれば被害者の孤立を招くこともあり、社会の断絶を作り出してさらなる問題を作りかねない。

この意味において、鼻血の原因に放射線障害を疑い恐れるような冒頭で紹介した問題も、原因が錯誤と結論づけられた後でも、何らかの心理的な支援が必要であったと思える。

被害者の認識に錯誤があったとしても、被害があれば救うことが社会の義務なのだから。そして被害証言を一つの情報として大切にあつかうことは、被害を訴える当事者を救うのみならず、きっと社会を構成している個々人にとっても有益となるはずだ。

被害が原理不明であることは、社会が対処しなくていい理由にはならない。
しかし日本社会は、被害の訴えを精査して補償しないことを決定する前に、しばしば調べること自体を拒絶してきた*4。原爆被害者に対してすら、日本社会は受忍を要求して補償を拒絶した*5
さらに心理的な原因は、しばしば責任者が恣意的に補償を左右する口実に用いられる。かつて中曽根康弘首相が被爆者を視察した時に「病は気から」と語った歴史もある。
- An Error Occurred

中曽根首相が広島市の原爆養護ホーム「舟入むつみ園」を訪問。原爆孤老に「病は気から。根性さえしっかりしていれば病気は逃げる」と発言。被爆者らの反発招く。

それゆえ私は心理的な被害への補償の必要性も主張した。つい最近にも、福島原発事故の補償が結婚を理由に打ち切られたとの報道があったばかりだ。
http://mainichi.jp/select/news/20121017k0000m040158000c.html

東京電力福島第1原発事故で避難指示を受けた被災者への精神的賠償を巡り、避難生活中に結婚した複数の女性への支給を「結婚で生活基盤が整った」として東電が打ち切ったことが同社などへの取材で分かった。文部科学省の審査会が賠償範囲を定めた中間指針にこうした規定はなく、賠償状況を監督する経済産業省資源エネルギー庁も「結婚や転勤で打ち切ることはない」と指摘、両省庁は実態把握の検討を始めた。

 女性の母親は「賠償が欲しければ女は結婚するなということですか」と憤る。東電広報部は取材に、結婚を理由にした複数の打ち切りを認め「個別案件は答えられない。判断基準はケース・バイ・ケース」と述べた。

精神論を用いて被害者支援をすませようとする問題は、今なお社会で広く見られる。もちろん、信頼できる関係において、精神論が心理的な支援となる場合を否定するわけではないが。


また、私はエントリのコメント欄で下記のようにも記述した。今ならば「可能性はゼロではない」という表現を選んだかもしれない。

原子力発電事故に由来する出血の可能性が全否定されたわけではありません。そういう意味ではエントリで言及した「鼻血」のケースは事実関係という意味で「嘘」というわけではありません。

いずれにせよ、放射線被曝を原因と名指ししたわけではなく、原因を名指しすることがエントリの本題ではないという補足注意にすぎない。同じコメントで紹介したsivad氏のエントリも、被曝が原因という可能性が低いという説に立っていた*6
しかし、この後にコメント欄でfnorder氏とやりとりをして、意図が伝わらないという感触があり、最終的に懸念もおぼえた。私からfnorder氏に対する最後の返答を転載する*7

原発事故に起因すると考えるのは非常に困難である』

その考えは「原子力発電事故に由来する出血の可能性が全否定されたわけではありません」という私のコメントとは相反しません。sivad氏への批判や反論にもなりません。
正直にいって、原発事故由来である可能性を否定するためであれば誤った理路でも採用してしまう危険性を今のfnorderさんから感じられてなりません。

「被害者」の存在自体が極めて怪しい状況で、わざわざ『被害者の言葉に耳を傾けよ』と訴えることの意味を問いたい。

蛍光塗料の瓶など、科学的な見地でも「被害」が存在しているケースもエントリで紹介していますよ。実態が不明な「鼻血」だけでなく、原発事故以外が由来と判明したケースをわざわざ併記した意味も考えていただけませんか。

結局のところ『原発事故のせいで鼻血や下痢を起こしてる人がいるかもしれないじゃないか』と思ってるんですよね?

いいえ。可能性だけなら様々に考えられますが(心因性や居住地移動による体調不良だって原発事故を原因とする問題にふくまれうるでしょう)、そうした由来の考察はそもそも眼目ではありません。
とりあえず、鼻血や下痢を起こした時に原発事故由来と思って不安になる人々、その不安を利用して詐欺を展開しようとしている人々、それぞれ社会が対処するべきだろう数が存在することが確かだと私は思ってます。これらの人々には、不安を解消するために様々な問題から目を背けたり背けさせようとする人々もふくまれています。そしてくり返しになりますが、そういう人々が存在することは、様々な問題が真に原発由来であるか否かとは異なる次元の話です。

念のために補足すると、ここでいう「対処」がそのまま補償や支援と等号で結ばれるわけではない。
私の書き込みに対してfnorder氏はコメント欄では返答せず、はてなブックマークに下記コメントを残した。
はてなブックマーク - 放射線が原因でなくても、被害者の訴えは真摯に聞かなければならない - 法華狼の日記

fnorder トンデモ
もう断定してもかまわんだろう。 2012/06/12

どのような理路で何に対して断定したのか、私には読み取れなかった。


さらに、はてなブックマークのコメントを比較していこう。
まず、東京電力撤退に関連しそうな報道を、私がエントリに雑多にまとめたことがある。
福島原発事故の公開映像についての報道備忘録 - 法華狼の日記

これらの場面は、東京電力の提供映像にはなく、閲覧できる映像の中で初めて明らかになった事実で、当時の対応が適切だったか検証する必要があるとともに、事故対応を検証するうえでも全面的な映像の公開が求められます。

ここでは「撤退」ではなく「解散」という言葉が用いられたらしい。
あくまで推測だが、3月12日の行動があったから、菅前首相が現場へ行った時に、撤退するつもりはないと明確に回答することができなかったのかもしれない。
そして時系列で考えると、水素爆発後の3月12日に一時的に撤退し、峠をこした3月14日は撤退しなかったということで、説明に明確な矛盾はない。「誤解」を招くような不都合な行動を隠しているだけだ。

事実関係については推測しているだけだ。どちらかといえば引用しているNHK記事と同じく、情報公開の不十分さを批判する内容だ。末尾でも、一般論として情報公開を求めている。

とりあえず一般論をいわせてもらうと、信頼を失う原因は情報の周知不足にあることが多い。信頼や安心をえたいならば、きちんと求められる責任に応じて情報を公開することだ。

このエントリに対して、下記のようにfnorder氏はコメントした。
はてなブックマーク - 福島原発事故の公開映像についての報道備忘録 - 法華狼の日記

fnorder
痛くもない腹を探られるような話 2012/08/11

これだけならば、きちんと情報公開しないから「痛くもない腹を探られる」という主張、つまり東京電力側への批判と読むこともできる。
しかしNHK記事に対するコメントを重ねると、印象が変わる。
はてなブックマーク - 対策本部 爆発の夜ほとんど幹部不在に NHKニュース

fnorder
深夜に「一時」いなくなったんだから休息してたんじゃないですかね。何が問題なのかいまいち分からん。 2012/08/11

「一時」だけで「休息」とする根拠や、その「休息」という行動の妥当性も問われることは、ここではさておく。
fnorder氏には、「事故対応を検証するうえでも全面的な映像の公開が求められます」というNHK記事末尾の文章が読めなかったのだろうか。入手できる情報から検証して問題があった時に始めて批判できるのでは、国家機関や大企業の問題を証明することが困難になり、被害者の負担も甚大になる。きちんと情報を公開しないこと自体が、国家や企業の場合は批判されるべき問題であり、いわば痛い腹なのだ。


おそらく、fnorder氏は事実か否かという評価基準を優先するあまり、社会的責任という評価基準を忘れがちなのだ。くわえて、専門家を信頼するという原則を超えて属人的に判断しがちなため、文脈に従って問題を切り分けることが下手なのだろう。
以前に、武田邦彦教授を批判するエントリを、理路の部分から批判したことがある*8
原発関連の情報を正しく見るには

しかし、原子力が生物に与える影響を詳しく学ぶのは生物・化学の範囲であり、
武田教授は自身の分野を逸脱した発言をしているのである。
原発関連で信用できる大学教授の分野は、医学と経済学(但し、後述の通り一部の発言に限る)である。
医学でなければ、放射能の人体に与える影響について論理的に理解できるものは少ないであろう。

途中から情報を正しく見ることと関係ない…… - 法華狼の日記

「大学教授の分野と発言内容を比較する」という一つの基準としては相応に妥当性がある見出しにおいて、工学部出身で原子力にもかかわっていた武田邦彦教授を批判しようとして、原発関連で信用できる専門分野をたった二つにまで絞ってしまった。

専門分野を絞っているわりに、専門分野内の幅を考慮していないことも困る。医学を専門に学んでいるからといって、放射線が人体に与える影響の知見を必ず持っているとは限らない。
そして専門分野が重なっていることと、主張に妥当性があることが同一ではないことにも注意が必要だ。武田教授の場合、どちらかといえば原子力への深い知見を期待される立場であるところが、問題点が強く批判される一因だろう。

単に武田教授を批判しているだけでなく、社会的責任をかんがみて強く批判されるべきと私は主張した。少なくとも、そう読める文章にしたつもりだ。
はてなブックマーク - 途中から情報を正しく見ることと関係ない…… - 法華狼の日記

fnorder 原発
リンク先の文章もズレてるけど、強く否定するほどでもないねえ。しかし武田邦彦に「原子力への深い知見を期待」とかすごいギャグですね 2012/08/20

この引用文と評価では、はてなブックマークコメントだけを読む人に誤解を与えかねない。
文章全体を読んでのとおり、「期待される立場」を武田教授が裏切っていると私は書いた。あたかも現在進行形で留保なく期待しているかのような抜粋をしては、文脈を損なう。正直にいえば、捏造に近いとすら感じている。


最後に、fnorder氏のエントリに戻ろう。ここでも、事実か否かという観点でのみ判断していることが推察される。
歴史修正主義とニセ科学 - fnorderの雑記(日記じゃない)

一方で、(自然科学系の)ニセ科学は鼻で笑う人が日本近代史(南京大虐殺とか従軍慰安婦とか)の否定論を信じてたりするけど、こういうのは要するに『知らないから』だとずっと思ってきた。だから不思議には感じないのだよねえ。
問題にしたくなるのは、反歴史修正主義の人が怪しげなネタに飛びつくこと。あんたらケッタイな否定論には乗らへんやんか、なんでそっちには乗ってしまうん?と思えてならん。

むしろ「ニセ科学は鼻で笑う人」は「知らないから」という解釈ですませられるのに、「反歴史修正主義の人」に「知らないから」という理由を考慮しないことが、私には理解しがたい。
広い意味での偽史ならば、「知らないから」という単純な理由も含めて、様々な動機で主張されうるだろう。そうでなくても私は最近、単純に無知である可能性や、偽情報を流布する媒体の責任を考慮して、「歴史修正主義」という表現を使わないようにしている。
しかし「歴史修正主義」とは、ホロコースト否認者の自称という語源からして、自国の加害を否認する傾向を持つ「主義」だ。たとえば反歴史学的な邪馬台国の比定地を主張するだけでは、歴史修正主義者と呼ばれることは滅多にない*9。逆にいえば、歴史修正主義は、基本的に被害の訴えを否定する傾向がある。歴史修正主義者の主張は、たとえ歴史に無知であっても、被害が実際にある可能性と天秤にかければ留保なく信用できない言説ばかりだ。
冤罪被害を訴えるという形式で戦争犯罪を否認することも多いが、それでも一方の主張だけ信用する必要はない。無知ならば留保という態度を選ぶことができる。否定論を信じて公言する時、無知だけが原因ということは考えにくい。

*1:本題ではないが、はてなidは正確に記述してほしい。uchya_x氏もDr-Seton氏も正確に書いているのに、なぜ私だけハイフンが抜けているのだろう。

*2:http://d.hatena.ne.jp/fnorder/20120901/1346464187

*3:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20111126/1322318941

*4:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20120822/1345590278

*5:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100804/1280936991

*6:http://d.hatena.ne.jp/sivad/20110906/p1「事故直後の鼻血は、関東圏の汚染程度であれば、機序からして、被曝による血小板激減や、白血病からのものである可能性は極めて低いと考えられます」等。ただし、sivad氏のエントリに対する批判があれば、紹介した私に向かうことも当然である。

*7:引用時、引用符を引用枠へ変更した。

*8:批判すべき問題点は他にもあるエントリだが。

*9:ナショナリズムを介して結びつくことはあるが。