法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ワンピース エピソード オブ サボ 〜3兄弟の絆 奇跡の再会と受け継がれる意志〜』

主人公ルフィと兄エース、もうひとりの兄サボ。幼いころに義兄弟となり、違う道に別れながらも深く結びついた3人。その出会いから再会そして別れまで、幼少時代の回想とオモチャの国の解放を中心にして、サボ視点で新しく描いていく。


約1年ぶりに土曜プレミアム枠で放映された『ONE PIECE』シリーズSP。
土曜プレミアム「ワンピース エピソード オブ サボ ~3兄弟の絆 奇跡の再会と受け継がれる意志~」8月22日(土)放送! | ニュース | ONE PIECE.com(ワンピース ドットコム)
お台場で「3兄弟の絆展」というコラボレーション企画も8月末まで開催しており*1、番組最後で2016年夏に映画公開予定という告知もあった。
今回のSP監督は、TV本編に何度も参加していた古賀豪監督で、演出も小牧文と共同で担当。キャラクターデザインと総作画監督は『聖闘士星矢Ω』の2期キャラクターデザインをつとめた市川慶一。
パートごとの演出には目を引くところもあったが、SP全体をつらぬく趣向は感じられない。古賀監督はアイデアをつめこむタイプの演出家であり、あまり長編作品は向いていないのか。
作画は個々のアクションで目を引くところは何度もあったが、過去のSPに比べるとピークが低く、全体の統一もできていない。数多い参加アニメーターを見ても、それほどスペシャルなアニメーターが見当たらない。東映が新しいTVアニメを始めたのでスタッフがいないというのなら、2012年冬SPのように別の会社にまかせてほしかった*2


脚本は、過去からSP脚本を手がけつづけてきた上坂浩彦。TV本編の現シリーズ構成でもある。
残念ながら、過去のSPと同じく物語要素をつめこみすぎ。ひとりの視点で語りなおすという企画から、整理された構成になることを期待していたのだが、実際はサボがかかわらない場面が多い。それでいてクライマックスをサボに担当させようとして、特に重要性もない場面で終わってしまった。
そもそも国家の解放が途中のまま、ラスボスとの戦いも終わっていない状態で、ひとつの物語をつくることに無理がある。まったく不可能というわけではないが、困難性からスタッフが逃げているとしか感じられなかった。


まず冒頭がいきなりエース救出戦で、ルフィとの別れまで約10分もかけてしまう。ほとんど昨年の焼き直しで*3、しかも比べると作画が弱すぎる。人気場面なので入れる意図はわかるが、たとえば戦闘は省略してルフィとエースが抱きあう場面から導入し、それを後から知ったサボの視点に移行することもできたはず。
本編が始まっても、前半のサボは闘技大会を観戦するばかりで、あまり本筋にかかわらない。ルフィの闘技も義兄弟の絆とは関係なく、ルフィの血縁とだけ因縁のあるチンジャオの戦闘に力を入れている。そのアクション描写そのものは作画演出ともに素晴らしかったが、それがいっそう全体のバランスを崩した。
表で戦うルフィと裏で戦うサボを対比するなら、もっと闘技大会は淡々と描写するべき。過去にないサボ視点と称するなら、サボの潜入劇をアニメオリジナルで展開して、闘技大会は時間経過の表現として挿入するだけ……くらいの工夫を見たい。
王家を追われたレベッカという少女も、なかなか物語の本筋にからまず、剣闘士としてアクションを披露するでもなく、露出の高い鎧でつったっているだけ。どれだけ本編で人気があっても出番は削るべきだった。女性の出番をつくりたいなら、今回はサボの物語なのだから、革命軍のコアラの出番を増やすべきだろう。


とりあえずオモチャ化された国民をもとにもどす目標があるのだから、その解放をクライマックスにもってきて、それをなしえたのがルフィとサボの絆という構図にだってできたはず。その構図に必要な要素から優先して描写していけば、2時間10分の尺を必要充分につかえたろう。
そうする場合、敵ボスのドフラミンゴは存在感を後退させて、オモチャ化の能力者シュガーをラスボスに位置づけるべきだ。演出でそれらしい奥深いキャラクターに見せたり、アニメオリジナルでサボが戦った描写を途中で入れたりしてもいい。
その意味ではレベッカを大切な記憶を失った少女として描いたのは正しいが、それも結末だけでは唐突に感じてしまう。剣闘士としての出番を削って、囚人となっている時間帯に潜入工作していたサボと出会うとかの下準備がほしい。
もちろんアニメオリジナル描写というだけで嫌悪感をもたらしやすいことはわかる。それでも、あまり思いいれのない読者としては、SP単独での完成度を高めてほしかった。