法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

撮りたい絵と撮るべき絵が一致した時、ドキュメンタリストには世界の声が聞こえる

インターネットでよく話題となるBPOの個別番組への提言は、その多くが「視聴者の意見」を紹介するものであって、BPOの最終的な見解と同一でないことは注意しておきたい。
BPOが団体として正式に出した報告は、おおむね広く目配りがなされると同時に、表現の規制につながらないよう慎重に抑制されている。


たとえば、はてなブックマークにおいて、先日にBPOの出した報告書が話題になっていた。読んでみると、たしかに平易な文章で読みやすく面白い。
[BPO]放送倫理・番組向上機構の ホームページが新しくなりました。 | BPO | 放送倫理・番組向上機構 |
あらかじめロケ台本を用意して準備していたが、取材の過程で異なる状況を知っても臨機応変に対応できなかったこと。ディレクション時において存在しないことを捏造するヤラセ演出は放送中止されたが、語らないことで誤解をまねかせるヤラセは通ってしまったこと。収入と利益の区別ができず富豪あつかいする、とても社会人とは思えない描写をおこなったこと。必要な絵が確保できず、再現やイメージ映像にたよって番組の虚構化がいちじるしくなったこと……制作過程で演出が過激化していった経過をていねいに検証する。
そして経過の検証に終わらない。バラエティ番組の「ボケ」や「ツッコミ」の意味を解題しながら、その機能が不全に陥った経過をていねいに指摘し、それが大真面目に解説されること自体がシリアスな笑いを生む。番組から波及したインターネット上の騒動に言及し、制作者と視聴者の間で築かれる関係性と、表現の根源的な責任を問うている。
そして末尾の章「おわりに ―― そして人生はつづく」にいたっては、ともすればありきたりに感じる言葉を重ねながら、無駄を削ぎ落とした詩情すら感じさせる。

普通に生きている人たちの人生はゲームではない。たんなる演技でもない。取材された人たちにとってはエラーではすまされない現実の人生が、放送のあともずっとその町で、その村で、その場所でつづいていくのだから――。

メディアリテラシーとは、マスメディア批判とは、これを基準にして目指すべきではないかと思えるほど、しっかりした内容だ。目を通していない人には一読を薦めたい。