法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

日本テレビ系地方局の代表取締役社長が新興宗教で講演していた件などについて

日露戦争でロシア軍捕虜を人道的に収容した歴史にもとづく映画を先日に視聴した。
『ソローキンの見た桜』 - 法華狼の日記

公開直後にミニシアター系で観客動員1位を記録したという。地域賞揚映画として現地の観客を動員できたためだろうか。それ以外に動員に関連していそうな問題も気づいたが、それは後日に指摘する予定。

映画のエンドロールをながめていた時、「愛媛県倫理法人会」なる奇妙な団体が後援としてクレジットされていることが気にかかった。
公式サイトを見ても、後援として「愛媛県」「松山市」にならんでクレジットされるほど特別あつかいされている。
映画『ソローキンの見た桜』公式サイト

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この倫理法人会とは、一般社団法人「倫理研究所」の会員組織で、全国的に存在する。
一見すると何らかの研究団体のようだが、実際はPL学園で知られる新興宗教の前身「ひとのみち教団」から分離した宗教組織のひとつだ。
PL教団とは - コトバンク

パーフェクト・リバティ教団の略称。御木徳一 (1871~1938) が徳光教の影響のもとに 1924年に開いた「ひとのみち教団」を,長男の御木徳近 (1900~83) が名称,教理を一新して 46年9月佐賀県鳥栖で再建したもの。

下記鼎談の早川タダノリ氏*1の指摘によると、悪名高い日本会議を構成する団体のひとつでもあり、日本の歴史的な加害を海外で否認する活動をおこなっている。
評者◆鼎談 斉藤正美×能川元一×早川タダノリ|図書新聞

日本会議の一角を構成している修養団体「倫理研究所」の在米組織が、ニューヨークなどで活発に歴史修正主義の運動を展開しています。「平和の碑(従軍慰安婦像)」の建設に反対するなど右派運動の言う「歴史戦」を積極的に担い、現地での動員源となっている。

ちなみに感想エントリで比較した映画『バルトの楽園』もシナノ企画、すなわち創価学会系の作品。こちらは第一次世界大戦のドイツ軍捕虜を人道的に収容した歴史にもとづく。
『バルトの楽園』 - 法華狼の日記

創価学会の意向もさほど感じない。会津人と創価学会をなぞらえているという深読みは可能かもしれないが、劇中には日蓮宗すら出てこない。それどころか徳島が舞台であるため真言宗の遍路が登場して、さまざまな人々を受けいれる地元の気風が語られる。他の宗教的な描写といえば、ドイツの母親が教会で祈る場面があるくらい。

戦争における国境をこえた友好を賞揚しつつ、日本の美談として愛国心を慰撫もする。そういう企画が宗教右派に好まれる傾向が感じられる。とはいえ、それは一般の観客にも好まれるところではあるだろう。
どちらも宗教団体として内容にあまり口を出さなかったのか、劇中で特定の教義を主張したり、対立する宗教を攻撃する描写も明確には存在しない。それぞれ組織の問題はあるとしても、内容には一見して反映されていなかった。


そこまではまだ良いのだが、背景情報を知ろうと単語をくみあわせて検索していた時、下記のようなページを見つけた。
松山北倫理法人会 » 2015 » 2月 » 13

テーマ   「南海放送とラジオドラマ」

講 師   南海放送株式会社       

       代表取締役社長 田中 和彦 氏

この南海放送日本テレビ系列の地方局で、原作となったラジオドラマを放送。開局65周年記念として映画も製作した。
そのラジオドラマ版について、取締役社長というより作者として、映画の企画が進んでいただろう2015年に語っていたらしい。

田中さんは、学生時代からラジオドラマを制作したいという気持ちが強く、地元の南海放送に入社され、「県民性をアピールしたい」という自分のテーマがあったため、愛媛の歴史を掘り起こしたラジオドラマを制作し続けたとのことでした。結果的にラジオドラマで数々の賞をいただきましたが、その中で平成15年に「松山ロシア人捕虜収容所外伝~ソローキンの見た桜」で第1回日本放送文化大賞ラジオグランプリを受賞した作品が印象に残っているとのことでした。

さらに「南海放送」と「倫理」をくみあわせて検索したところ、昼の帯ラジオ番組で倫理研究所の広報を四半世紀も放送していることを知った。
心にプラスワン | RNB 南海放送

平成8年11月22日にスタートしたラジオ番組「心にプラスワン」倫理法人会の皆様の"倫理の心をもっとたくさんの人に届けたい"という熱い思いを込めて。毎週月曜から金曜のお昼11:40~11:45に放送中。たくさんの人の心に"プラスワン"を届けます!

オウム真理教の一連の事件が発覚して新興宗教への社会の視線がきびしくなった直後にはじまっている。だからこそ広報の必要性を感じたのか、それともただの偶然なのか。


いずれにしても、南海放送倫理研究所のむすびつきは映画ひとつにとどまらないことがわかった。
おそらく歴史ある宗教団体の資産が地方局には魅力的なだけだろうとは思うが、問題がないと考えることもできない。
映画の制作背景が気になっただけで、とんでもないものを見つけてしまった。どうしよう?

*1:はてなアカウントはid:tadanorih