法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ダンタリアンの書架』に小林治監督が登板した件

登板前に原作ファンから危惧されていたことを作画が悪いと評する意見に、いつもながら違和感を持つ - 法華狼の日記で言及していた件。今回の小林治監督は亜細亜堂のベテラン監督ではなく、マッドハウスガイナックス作品への参加が多い若手監督。
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「かなり特殊なビジュアルになる」とTwitterで小林監督が語っていたわけだが、実際に見るとかなり完成度が高く、かつ違和感が少ない部類に入ると思った。書籍の内部に入って過去の出来事にふれるという、虚構性の高い物語だったことで、特殊なビジュアルが浮いていない。うつのみやさとるが登板した『創聖のアクエリオン』と同じく、物語自体が特殊なビジュアルを要求する内容だったのだ。
しかも、書籍の世界から出た後は、まず屋敷の外観を映すカットにおいては雨が降りしきり、全体をぼやかしていた。屋敷内も暗がりに乱雑につまれた書籍をそっけなく写し、本棚と本だけの直線ばかりで構成した背景を見せる。つまりデフォルメされた書籍内の背景美術と、結末の作中現実で見せるリアルな背景美術を、可能な限りすりあわせていた。


そして、過去の小林作品の延長にあるキャラクターデザインよりも、絵本のようにデザイン化された背景美術を興味深く感じた。
小林監督はTwitterにおいて、今年に入っての小林プロダクション解散を受け*1小林七郎美術監督の手仕事を賞賛し、近年のデジタル化された背景美術に対して「面の表現がつまらなくなっちゃった気はします」等の批判をくわえていたことがある。
日本アニメ美術論壇の誕生 - 法華狼の日記

Togetterの発言に反しているのか一貫性あるのか、小林治監督は自作の『魔法遣いに大切なこと 〜夏のソラ〜』では、写真であるかのように錯覚するレベルで緻密な背景美術に、一般のアニメと比べてもラフなフォルムのキャラクターを乗せていました。

上記エントリで一部引用しているが、コメント欄で補足したように小林監督自身が過去に監督として手がけた作品で、実景をレタッチした背景美術を用いていた。そのまま写真を使っているわけではないが、シンプルなキャラクターデザインとの対比でことさら写真のように感じられた。
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アニメ『魔法遣いに大切なこと 夏のソラ』 オフィシャルページ
そして『ダンタリアンの書架』も、他の通常回では公式サイトのイントロダクションに画像が載っているとおり、写真を使ったかのような背景美術を多用している。
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ED映像では実写を用いているくらいだ。
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小林プロダクションの解散を受けて、デフォルメされた背景の使用に意欲を示したのか*2、それとも通常回との差異を強調するため*3背景美術の虚構性を強調したのか、それはわからない。わからないが、こういう起伏や冒険があってこそ、TVアニメ全体で先が見えない楽しみが生まれるのではないか、とは思う。

*1:苗字が同じだが、関係はない。

*2:もっとも、自ら作画演出のほとんどを手がけた『かいけつゾロリ』ED映像等では、自己の絵柄で描いたキャラクターと同じラインの背景美術で見せたりもしていた。

*3:パンティ&ストッキングwithガーターベルト』に登板した時は、カトゥーンの絵柄と日本アニメの動きやフォルムを折半した通常回に対して、相当にリアルで生々しい人間の醜さを描いていた。