法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バトルスピリッツ ブレイヴ』第50話 黎明

カードバトルにおいて十二宮Xレアが既存のものばかり登場して、未召喚のカードが多かったところは、制作リソースの節約でもあろうが、この作品らしい嫌リアルさと感じられて興味深かった。敵スピリッツの下にもぐりこんで接射したり、3DCGで描画された殺陣自体は映像として素晴らしい。
最後の最後に主人公が満足できるバトルを行い、対局者へ丁寧語で感謝の言葉をのべて消えた結末は、前作の最終回を思い出させる。あくまでカードバトルは代理戦争や儀式であって、それ自体を楽しむ遊戯ではない。その世界観において、カードバトルを純粋に楽しめる状態までたどりつく物語と見れば、過酷な裏道をつきすすみながらもカードバトルを中心的なテーマにしたシリーズだったと感じられる。
ただ、バトルと同時進行でオペレーションゾディアックの描写をするのは、カードバトルの流れが止まるので避けてほしかったな。あくまでカードバトルは世界観を支えるひとつの設定あつかいで、基本は遠い未来の人種衝突を描いたSFファンタジーだった。


しかし、いろいろと面白くはあったが、決着は無念さが残った。自己犠牲が求められる展開は嫌いでないが、自己犠牲を受け入れる結末は好きではない。EDが前作のED主題歌にのせた新規映像だったので、あるいは帰還が描かれるかと思ったが、可能性がにおわされただけだった。あまり悲壮感を盛り上げようとしなかったことが救いか。
ただ、前作で去ったはずのマギサが姿を見せないまま世界の危機を止めたと示唆された描写は、同じように去ったダンも意思を保っていることを示唆している。自己犠牲を必要とした物語の続編で、結局また自己犠牲を続けてしまったと見るより、苦悩に満ちた世界へ一抹の希望を描いたのだと受け取りたい。


最終回なので、全体の感想も書いておこう。
映像面では前作以上に充実した内容ではあった。1年間どころか正確には前作をふくめた2年間の長丁場を固定したローテで回しながら、映像が荒れるどころか濃密な手描き作画と激しい3DCGで最後まで楽しませてくれた。ローテ作画監督の個性を尊重し、それぞれに魅力ある絵柄が楽しめる作品は、滅多にない。絵柄の濃密さも、最近の流行ではないことで、逆に年を通して独特の魅力を感じさせた。
物語も、世界を救った英雄が役目を終えてうとんじられた後を描くという、興味深いテーマで楽しませてくれた。立場のない英雄に役目を与えようとして仲間が未来世界へ呼んだが、そこでも過剰な責任を、しかも前作で世界を救った結果として背負わされるという、主人公に苦難を与え続ける展開は、けっこう児童文学らしさを感じた。主人公が単純に悟っているのではなく問題の重大さを等身大で受け止めつつ、それでいて対処にさいして葛藤を見せない性格も、重い世界観と相補的に際立った。
その旧英雄たる主人公が求められた未来世界において起きている危機も、異世界から来た魔物の侵略という古典的なもののようでいて、植民地主義の様々な問題をしっかり描けていた。さらにSF設定によるどんでん返しで、共存の可能性がない敵ではなく、人種間対立ということを明確化。最終回までに和解へたどりついたのも、良かったとは思う。
マギサの存在が一人の台詞で可能性がにおわされただけという最終回に代表されるように、御都合主義や過剰な説明を排する姿勢も、おおむね好感が持てた。残酷な出来事を描く場合はにおわせるだけにとどめ、画面の刺激だけで注目を集めようとしない上品さが終始一貫してあった。


思えば、名古屋テレビサンライズという組み合わせは、子供向けロボットアニメで過酷な展開を見せ続けた伝統がある。そういう意味では、いかにもそれらしい作品ではあった。
日曜朝に見るには鬱屈しすぎた部分も多かったし、積み重ねた上での先へたどりつけなかった結末は残念だったが、放送中は週で最も楽しめた作品の一つだった。