法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ナチスが最も恐れた男』

2008年にノルウェーで作られた第二次世界大戦映画。レジスタンスの一員として活躍したマックス・マヌスを主人公にすえて、北欧での知られざる反ナチス活動を描く。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00867/v00119/
GYAOで無料配信していたので視聴してみたのだが、悪くない。今後もこういう劇場未公開な埋もれた傑作を配信してほしい。


物語は比較的に単純。フィンランドで対ロシア戦を行った記憶をかかえつつも、主人公達は反ナチスのビラを印刷してばらまいたり、当初は思いつきめいた活動ばかり描かれる。
主人公も温和な顔つきの俳優が演じ、若者らしい反抗気分としてのレジスタンスが描写される。映像も緊張感がほとんどなく、市街地のロケも最近の都市を撮影している雰囲気が画面にただよう。ロシアやナチスによる暴虐すら画面で描かれない。
しかしナチスに踏み込まれた主人公が窓から飛び降りた場面から、少しずつサスペンスが盛り上がっていく。映像も緊迫感の度合いを増し、広い市街地は主人公達の孤立を強調する舞台となる。自由や王に認められたことや悪と戦う爽快感がえられる一方で、テロ活動を通して多くの犠牲が生まれたことがにおわされ、やがて主人公の眼前に展開されていく。


主人公は能力と決断力でレジスタンス活動を生き抜いていくが、どちらかといえば運の助けも多い。出会った人物の多くも、ナチスの監視する病室から脱出した英雄らしくないと評する。等身大の若者だ。
そして戦争に勝利して生き延びた主人公には、何も残っていなかった。多くの仲間を失っただけでなく、学歴も職能も持たない主人公は、平和になったはずの社会に戻ることへの不安感を吐露する。
この映画は対ファシズムをうったえることよりも、社会活動に身を投じた若者の普遍的な姿を描こうとしているのだ。ゆえに結末で自らの活動に意義があったと信じられた主人公が美しい。


レジスタンス作品でも意外と珍しい、不思議な後味の良さと青春の輝きが描かれた、興味深い映画だった。
先述の飛び降り場面やレジスタンス活動の特撮もなかなか良く、市街地で展開されるレジスタンスの逃亡劇も銃撃アクションに見所がある。
邦題以外は素晴らしい*1粗さを感じつつも視聴後は満足できる内容だった。

*1:原題は主人公の名前をそのまま使った『MAX MANUS』。そもそも主人公は北欧でレジスタンス活動を展開して運良く生き残った人物という位置づけで、ナチスがふるえあがったかのような邦題はあまり内容に合っていない。