法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『夕凪の街 桜の国』

こうの史代作のマンガを実写映画化したもの。「夕凪の街」と「桜の国」と、世代ごとにパートを別けたことで、戦争が終わっても人々の営みは続くことを描いた原作に対して、どう映画制作者が切り結んだか……


残念ながら、映画独自の見所はほとんどなかった。映画は「桜の国」パートでマンガ以上に激しく時系列を前後させるのだが、単に子役の演技でボロを出さないがため、主人公の子供時代を削っただけと感じられてしまう。
代わりに原作では想像にまかせていた「夕凪の街」主人公の結末以降を映像化しているのだが、これがほとんど評価できない。真っ白なコマの連続で衰えた視力を表現し、原爆症でやつれただろう主人公を間接的に描いた原作に対し、映画では血色のいいままの主人公が座ったまま静かに倒れるという陳腐な描写ですませてしまった。過去の独自描写で良かったのは、可愛がっていた弟子と息子が結婚することを、被爆への嫌悪感から自身も被爆した祖母が拒絶する場面くらいか。
他に面白かったのは、自分が産まれる前の両親を「桜の国」の主人公が幻視する場面。ただ一つの大きな嘘で奇跡を描いた原作に対し、昭和時代のセットを歩く両親を主人公が追うという舞台演劇的な演出で処理していた。


VFXはOMNIBUS JAPANが制作。昭和33年の「夕凪の街」パートにおいて、遠景の古めかしい風景や、川岸のスラムを担当している。動きのない遠景の合成がほとんどなので、さすがに粗はほとんどない。
ただ、スラムの基礎が川面にふれているカットでは、障害物があるのに水流の変化が見えず、不自然な合成になってしまっていた。