法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『この世界の片隅に』

こうの史代作のマンガを実写ドラマ化したもの。8月5日に日本テレビ系列で放映された。残念ながら、危惧したとおりの出来だった。
マンガという表現形式を、絵を趣味とする主人公のメタ演出で活用しきった作品なので、そのまま実写にすることが困難ということはわかる。主人公が失ったものの大きさを、絵描きの腕の代わりに回想で表現したことは許せる。戦中の生活を細やかに描くことで生まれる魔術的な現実感も、薄められつつ原作の良さがいくらか残っている。
しかし、太極旗の描写が削られたことは承服できない。ひるがえる太極旗は『夕凪の街 桜の国』に欠けていたものを補う、いわば画龍の睛だ。それがないことで主人公の心情もタイトルが持つ意味も弱められてしまった。この問題はいずれ機会を改めて、原作の感想で書くつもり。


あと、特撮も全般的に今一つ。遠景の戦艦や廃墟はそこそこ合成をていねいにしていたが、市街地は手つかずのままで現代的な建築物がそこここに確認できてしまう。カメラをはげしく動かしているわけでもないのだし、海面と島と森を除いて全て合成し、戦時中の街並みを再現してほしかった。一般家庭が地上波をハイビジョンで見ているということを制作側は理解していないのか。