法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『TIGER & BUNNY』#09 Spare the rod and spoil the child.(かわいい子には旅をさせよ)

須永司コンテ、飯島弘*1作画監督で、映像は安定していた。物体が浮遊するテレキネシス描写を誤魔化さず動かしていたし、赤ん坊を前にした主人公達も様々な表情を細やかに見せる。
3DCGがほとんど使われなかったこともあってかアクションは思っていたより大人しかったものの、格闘の型を見せるドラゴンキッドの動きはキビキビしていて良かったし、遠景で見せるねっとりした黒煙爆発も悪くはなかった。


物語も赤ん坊をあずかるベタな物語を作品設定をいかして楽しく見せていたが、前々から少しずつ感じていたステロタイプな人物描写で危うさも感じてしまった。
自身が女性と認識されることから距離をとりたいホァンと、女性という立場を喜んで演じるオネエのネイサン。異なるステロタイプなキャラクター同士が対比されることで*2、結果的にしても固定されたジェンダー規範を安易に肯定せず、ぎりぎり不快にならない程度におさまっていた。物語の結末で、ホァンは両親の思いを受け止めて可愛い髪飾りをするが、これもジェンダー規範を受け入れたわけではない。花というモチーフをかいして赤ん坊と自らを重ねたことに加え、両親の思い出を大切にするためバーニーが子供っぽい玩具を守った姿を見た末に選択したことだ。
しかし結果的に不快にならなかったのは、制作者が慎重なおかげだけとは思いにくい。回想で登場したホァンの両親は台詞に「アル」をつけるというステロタイプで描かれており、はしばしで安易さを感じたことも事実。今後ちょっとした場面でふみはずしてしまうかもしれない。


それはそれとして、今回の感想とは全く別個に、インターネットで見かけた興味深い感想を紹介。
2011-05-28

「そうですね… えーと、この話、ヒーローにスポンサーがいるわけですけど、そこが窓口というか、そこを通じて、自分で守っている市民たちとの接点があるんですよ。」

「ふむ?」

「ヒーローが市民を守るにしてもさ、どこかで接点がないと、一方的に守る構図になるでしょう。『守ってやってる』というか。でも、守っているその当の市民たちは、どんな人たちで、どんなことを言ってるのか。そういう情報がヒーローに伝わる経路はあったりなかったりするけど、ではあるとして、それでどうなる、という。」

番組開始当初は、この展開であればいつかスポンサー批判も入るだろうと予想したが*3、なるほど『X-MEN』あたりの社会と繋がったヒーロー像として展開していけばスポンサー批判を行う必要はないかもしれない。

「じゃあそのタイガーアンドバニーの悪役は、きっとバットマンだな。資産家で自前の秘密基地とか持ってて、装備情報人材その他で他人に頼る必要がない。それで自己憐憫的で『こんなに正義のために戦っているのに世界は俺を愛さない、なぜだ! そんな世界なんて俺だって嫌いだもんね!』とか言う。そういうやつとどういった殴り合いになるかだ。」

#08の感想では折り紙サイクロンだけが古典的な変身ヒーローらしいと書いたが*4、確かにルナティックもまた正体を隠して「正義」を行うヒーローだ。変身ヒーローの古典像に近い。
アンチヒーローであるためスポンサーロゴを入れられないという制約が、逆に、社会とつながらず個人の正義をつらぬくキャラクター性を支えるわけか、なるほど。

*1:近年では『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』第42話で作画監督を担当し、よく整った画面を見せてくれた。突出した個性は感じられないが、名作画監督だと思う。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20100131/1265630698

*2:もともとネイサンのオネエ像からして相当なステロタイプなのだが、超能力者という二重のマイノリティ性があるためか、それとも同じ超能力者の周囲から一度も嫌悪感を持たれていないためか、これまでは不思議と強い違和感を持たなかった。

*3:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20110406/1302109054

*4:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20110525/1306421350