法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』

ティム・バートン監督による2007年のホラーミュージカル映画。19世紀のイギリスで生まれた都市伝説、殺人理髪師スウィーニー・トッドを基としたミュージカルを映画化したもの。
産業革命で貧富の差が増して霧の立ち込めるロンドンを、煙突から黒い煙の上がるたびに命が潰される地獄として描いた、挿絵付きの童話にも似た映像世界が素晴らしい。屠殺者が薄っぺらでカラフルな夢を見る一方、現は沈痛なモノクロームに血の色が塗りこめられるだけ。


ティム・バートン作品の常として、箱庭のような狭い世界を切り取った物語ではあった。復讐のため15年ぶりにまいもどった街で出会う人々の正体は、どれも予想できる範囲にとどまる。
しかし、視野の狭い者も互いに秘密を抱えながら望みをかなえようとしてあがき、最終的に箱庭の内と外へ別れていく。箱庭の内にいる者へ急転直下の結末を用意してきちんと物語を閉じ、同時に箱庭の外へ出られた存在を示唆して救いも描く。箱庭の内にとどまった者さえ、よく見れば途中の歌で宣言して願った未来をいくらか成就しており、御伽噺として完成されていた。
実のところ殺人を喜劇的に描くホラーは珍しくないが、人を食ったスプラッターとして標準以上の出来ではあり、文句なく楽しめた。