法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『極楽島殺人事件』

2007年の韓国映画。わずか17人しか島民のいない極楽島において、出口の見えない惨劇がくりひろげられる。
約110分という手ごろな尺で、古き良き横溝正史映画の恐怖と謎解きを味わえる。そこそこのゴア描写もあり。島の広大な風景も素晴らしいが、21世紀の映画にしては映像の質感が良くも悪くも古臭い。


冒頭では全ての島民が消えたと説明され、『そして誰もいなくなった』に代表されるクローズドサークル物かと思わせる。しかし島で何が起こったのかを描く回想が始まってからしばらくして、幻覚とも超自然ともつかない現象が起こり出す。ミステリなのかサスペンスなのかホラーなのかジャンルが判然としなくなり、それが不安感を増していく。
前半で名探偵のように推理合戦を戦わせた若い男女も、それぞれ怪しまれたり隔離されたりして、いったん事件を動かす表舞台から去る。隔離されたことで容疑者の輪から外れるという手続きではあるが、群像劇化することで主人公が誰かという特定すらできなくなる。
それでいて、紙切れに残された「もちこんではいけないモノ」の正体や、大金がつまったバッグの消失と出現、幽霊のようにしか見えない何かといった、謎を解くべき要点は整理されている。おかげで混沌する物語に身をゆだねても、何がわからないのかまでわからなくなることはない。
最終的には一つのジャンル作品となって、全てのつじつまがあう。しかし、いくつか当事者が意図的に混乱させた場面もあり、謎解きとしては釈然としない部分も残った。どちらかといえば真相が全て明らかになった後、悲劇性を際立たせる回想を描く結末に力が入っている。
幸福こそが悲劇の予兆であり、ゆえにこの物語は「極楽島」の「殺人事件」というわけだ。


ところで作品単体の感想とは別の話だが、とある日本の作品に似ていると見ながら感じ、見終えた後には確信にいたった。はげしい賛否両論が戦わされたとあるホラー作品と、驚くほど似ている。批判をあびた主な要素を削ったり補ったりして、ずっと完成度は高いものの、悲劇が起こった真相や惨劇が進行する理由はよく似ている。
ただし、どちらも横溝作品からの影響を色濃く感じる作品であり、主人公の立場や物語展開は全く異なり、よく似ている部分も先例はある。つまり仮に影響関係があったとしても盗作とはいえない。しかし偶然を超えた何らかの共時性を感じたことも確かだ。
名前をあげると、その時点で真相を明らかにしてしまうので、隔靴掻痒な文章にならざるをえないことが無念。どちらもジャンルを不明確にすることで展開の衝撃を増す作品だから……